第18章「あんやく」 2-3 王都攻撃
「誰かある!」
いつもの穏やかな声とはうって変わった、凛とした力強い声に戸惑いつつ、廊下の奥より従者がすっ飛んできて控えた。
「ハハ!」
「異次元魔王の配下を全員捕らえよ! 逆らえば殺せ! ただし、只者ではないぞ……心してかかれ!」
「ハァーッ!!」
また、従者がすっ飛んでゆく。
巡礼者でにぎわう平和なイアナバの地が、密かにかつ俄かに臨戦態勢に入った。
これが、玄冬との戦いにより7日間の臨時プログラム修復に入ったストラが再起動する2日前のことである。
ヴィヒヴァルン王都ヴァルンテーゼよりチィコーザ王都バラーヂンまで、ひたすら街道を歩けば1か月半ほどだが、オネランノタルの未確認飛行物体は亜音速により5時間ほどでチィコーザ領内に到達した。
だが……。
「オネランノタル、止まってください」
オネランノタルがゆっくりと高度下げていると、ストラがやおら席から立ちあがってそう云い、とにかくオネランノタルが飛行体を空中で静かに停止させた。
「どうしたんだい? ストラ氏」
「王都バラーヂン全体を強力な魔力子の集合体が覆っていますが、これは防御魔法と推察します。さらに強力な攻性魔力子がアメーバ状に集まって、この防御機構を攻撃しています。いまあそこをこの飛翔体で突破すれば、魔法防御に穴を空けることになり、非推奨です」
「なんだって!? こんな距離から分かるなんて……流石ストラ氏だな」
オネランノタルとリースヴィルが、慎重に150キロほど離れた王都を探った。
が、リースヴィルには分からず、オネランノタルにもうっすらとしか分からなかった。
「もう少し、近づいてみるよ」
時速で云うと300キロほどの速度で、飛行体は王都に近づいた。遠くの平野に王都が見えてくるころに、オネランノタルも事情を把握した。
「なるほど、こりゃ凄い。こんな規模の結界攻撃戦は、初めて見た。どこからこんな大規模な攻撃を!? それに、全く知らない攻撃法だ。少なくとも、東方や北方の魔法じゃないね。魔力の使い方が、全く違う」
「じゃ、西方ってこと?」
フローゼの言葉に、オネランノタル、
「そうなるかもしれないが……西方のどこからだ!? 距離が通すぎないかい!? 魔王か!?」
「西方に、ゲントーのほかにまだ魔王がいるのですか?」
リースヴィルがストラにそう尋ねたが、ストラは、
「分かりませんが、たぶんいません」
ぶっきらぼうにそう答えた。
それにはオネランノタルが四ツ目の片眉を上げて、
「魔王でもないのに、この距離でこの攻撃力か……! こりゃ、何か秘密があるね。あれを何とかしなくてはならないとしたら、その秘密を探るところからだね」
「よく分かんねえけど、オネランノタルとリースヴィルでも撃退できねえほどの攻撃なのか?」
フューヴァも席を立って話に入り、そう云った。
「できなくはないけど、相当に苦労するだろう。今は良く持っているほうだよ。王都中の魔術師が総出で防いでいるんじゃないか? しかし、時間の問題だ」
「じゃ、急いだほうが良いんじゃ?」
と、フローゼが云ったとき、急激に王都を襲う魔法攻撃が弱まるのが分かった。そして、そのまま攻撃がぷっつりと消えた。
「……なるほど、流石に常時あの調子は無理なようだ。そりゃそうだろうね。王都の眼の前で攻撃を行ったって、あの規模を維持するのは大変だろう」
オネランノタルがそう推測する。
「そうは云っても、次にいつ攻撃が始まるのか分からないし……急ぐのに、こしたことは無いんじゃ?」
「そりゃそうだ。よし、今のうちに王都に入ろう」
オネランノタルがそう云い、飛行体の速度をあげる。
だが、王都が近づくにつれ、機体が揺れはじめた。
「オネランノタル、防御結界は弱まっておりません。やはりこのままこの魔法飛翔体で突入すると、王都の魔術的防御壁を破壊するか損傷せしめる可能性が高いです」
ストラが冷静にそう云い、
「そ、そのようだね! 仕方ない、ここで降りよう!」
オネランノタルが、飛行体を急いで地面に下した。上下左右に激しく揺れながら、墜落するように地面をえぐって急ブレーキでなんとか着陸する。
「みんな、無事かい?」
その「みんな」とは、もちろんプランタンタン達3人のことである。




