第18章「あんやく」 1-11 北へ
「オネランノタル殿とフローゼは、如何致しまする」
「もちろん共に行きます。連れてゆかないと、何を云われるか分かりません」
「ですな……」
ルートヴァンが苦笑し、
「では」
と云って踵を返すストラをまた最敬礼で見送った。
ストラが使用人の宿舎に到着すると、すっかり身支度を整えたプランタンタンとフューヴァ、それに酔っぱらってベロベロのペートリューが待っていた。ペートリューに至っては、この状態が「すっかり身支度を整えた」のかもしれないが。
「オネランノタルとフローゼは?」
ストラが半眼無表情でそう云ったが、プランタンタン達が分かるはずもない。
「リースヴィルは?」
「こちらに控えて御座います」
リースヴィル、すぐさまルートヴァンから魔力で指示が出ており、
「オネランノタル様とフローゼ様にも、連絡はつけてあります。すぐに参集なされましょう」
「さすがリースヴィルだぜ!」
フューヴァが笑顔でそう云った。
城の片隅の広場で5人が待っていると、城下町のほうより魔力でフローゼを浮かせたオネランノタルが飛んできて、一直線にストラの前に降り立った。
まずフローゼがストラの前に片膝をつき、
「フローゼ、ただいま参上いたしました!」
続いてオネランノタル、魔族なので礼も何もしないが、
「急な出立は想定していなかった! 遅れたことを詫びるよ、ストラ氏!」
「いいえ、こちらも本当に急でした。事情はリースヴィルから聴いた通りです。ゾールンの移封を固定していると推定されるチィコーザの『冬の日の幻想』に、何者かが強力な干渉を行っているとのことです。『冬の日の幻想』は、チィコーザ王宮の地下深くにあり、厳重に防衛がなされています。その防衛を突破するべく、強力な魔術的攻撃が行われている模様。我々はヴィヒヴァルンと同盟関係にあるチィコーザ王国の救援要請に応え、これを撃退するのが作戦目標です」
オネランノタルがニンマリと笑いながら、
「了解した!」
と答え、リースヴィルとフローゼが立礼で、
「畏まりました!」
と力強く答えた。
「ようし、じゃあチィコーザに出発だぜ!」
フューヴァがそう音頭をとり、
「でも、歩いていくのか? ちょっと遠いな」
「フシュッシュシュシュイィッヒヒ……そんわけないだろ。準転送魔術でぶっ飛んでゆく。平たく云えば、魔法の乗り物ごと転送するんだ!」
「いつの間に、そんな魔法を考えたの?」
フローゼが驚いて尋ねた。
「正確には、私が行うのは魔術じゃないが……他の者でも使えるよう、リースヴィルや魔術学院の協力で術式を開発した。先日、代王が雲霧エルフ達を運んだあの魔法の大船……あれを参考にした。いつも使っていた魔力の乗り物をもっと頑丈にして、その乗り物ごと転送をかければ、ただ転送するより大人数を一気に運べると考えたんだ」
云うが、広場にいつもの魔力の透明ゴンドラではなく、先日ルートヴァンが用意した巨大な飛行船をもっと小さく、かつシャープにしたような、銀色に光る流線型の物体が出現した。この世界の人びとにしたら、巨大で扁平なヘルメット型の兜のような印象だった。高さは2メートル近く、幅は3メートル、長さは8メートルほどだった。
その横腹にドアが開き、
「さあ、乗って!」
オネランノタルが皆を先導し、ストラ、リースヴィル、プランタンタン、フューヴァ、そして酔いつぶれてグダグダのペートリューを苦笑しながら引っ張ってフローゼが乗りこんだ。
「ちゃんと、窓もあるよ、フューヴァ!」
ニヤッと笑ってオネランノタルがそう云い、フューヴァも口笛を吹いて答えた。外側から見えないが、内側には大きな窓が並んでいて、外が見える。馬車のように席が並んでいて、みな適当に座った。なおシートベルトは無い。
「では、出発だ!!」
オネランノタルが思考行使し、音もなく銀の飛翔体が浮かび上がった。
王城の上空高く垂直に浮かびあがり、そこから転送魔術が発動して、瞬間移動めいて北に向かった。
それを、城の窓よりルートヴァンが目を細めて見送った。




