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第18章「あんやく」 1-9 推薦

 「……で、特任教授なんだが」

 マーラルが話を切りだし、ペンドロップが厳しい顔つきとなった。


 「ここだから云うがね……2か月近くまえ、特段に強力な『訪問者』が現れ、神の間の手前まで攻めこまれたんだ……」


 「なんだって……!」

 マーラルも目を丸くする。帝都の地下のことは、マーラルには知る術がない。


 「なにせ、予備役の私にまで非常招集がかかったからね。私が出たころには、反魔魂マルトで押し返した後だったのだが……被害がひどい。騎士団長は戦死、副団長も命はとりとめたが再起不能となり、引退した。皇帝騎士団は半壊に近い被害だ。特任教授も2割がた戦死し、ほかにもまだ療養中の者が多数いて、魔術師部隊もほぼ半壊なんだよ。いま、地下の防備は酷く手薄でね」


 「そうだったのか……それで、急遽、騎士を選抜したり、在野にまで特任教授を求めたり……か。非常事態だな」


 「そういうことだ」

 ペンドロップ、そこで、片眼でマーラルを見つめ、

 「……おい、リール、君、特任教授にならないか?」

 マーラルは、本当に茶を吹き出しそうになった。

 「私が? 何を云ってるんだ……」

 「本気さ」


 「待て待て、待ってくれ。私は見かけは若いかもしれないが、君よりずっと年上なんだがね」


 「魔術師に、年なんか関係ないさ! 70で特任教授になった例もある! 特別に素晴らしい防御魔術の教授だった!」


 「私は、特別に素晴らしい魔法なんか、これっぽっちも使えないということを忘れているぞ!」


 「後方支援部隊も必要なんだよ!」

 「後方支援……」


 「そうさ。君が特別に素晴らしい伝達魔法の使い手だという事実を私が知っていることを、忘れてもらっちゃ困るね!」


 「回りくどい云い方をするんじゃないよ」

 「なあ、頼むよ、私が推薦するから」


 マーラルが、何とも困ったように手で渋い顔をぬぐった。こんな展開になるとは、思ってもみなかった。


 (だが、待てよ……特任教授になれば、自由に帝都の地下に行けるのか……タケマ=ミヅカ殿の様子も探れるな……)


 つまり、ルートヴァンの欲していた、皇帝勢力の深部の様子を探る間者に、マーラル自身がなれるという寸法だ。


 「よし! いいだろう。推薦を頼みたい」

 ペンドロップが、笑顔で手を打った。

 


 「だいぶん、あったかくなってきたでやんす」


 ヴィヒヴァルンはヴァルンテーゼ城内の片隅にある、使用人の住まう3階建てのアパートの1室で、木窓より空を見あげてプランタンタンがつぶやいた。なお、城内に住むことを許されているのは使用人でも高級な部類であり、中には魔法学院の卒業生もいる。アパートは5棟あり、ここから城内の各所に出勤していた。


 「雪もほとんど消えたぜ」


 テーブルで雑用ナイフを磨いてたフューヴァも、プランタンタンごしに空と城壁を見やってそう云った。


 まだ風が冷たく、雨まじりの春雪も降るとはいえ、気候はすっかり春めいている。


 ペートリューは自分の部屋で、いつも通り飲んだくれて寝ていた。3人とも1人部屋を用意されているが、いまフューヴァがプランタンの部屋に来ているのだ。


 「あんなところに、ストラの旦那がおりやすぜ」

 「どこだよ?」


 プランタンタンが木窓から身を乗り出して外を見あげ、フューヴァもテーブルにナイフを置いて、プランタンタンの後ろから顔を出した。


 「フューヴァさん、重てえでやんす!」

 窓枠に押しつけられて、プランタンタンが呻いた。

 「どこにいるんだよ?」

 「あの塔の上でやんす!」


 「塔の上だあ?」

 「苦しいでやんす!」

 「ほんとだ……いつものことながら、何をやってるんだろうな?」

 「知らねえでやんす」


 フューヴァが窓から身を離したので、プランタンタンも解放される。ストラは、腕を組んだいつもの姿勢でヴァルンテーゼ城名物の尖塔群の1つの上に浮かんでおり、まっすぐ南方を凝視していた。


 数日後……。


 城内をウロウロするにも護衛が付きまとい、億劫だったので部屋に閉じこもっていたプランタンタン、


 (あれ……?)

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