第18章「あんやく」 1-4 聖下の御条件
(ううむ……やはり、ほしい! 何としてでもほしい!! ああいう規格外の傑物が、王国に新しい風と活気をふきいれる!! 出自や身分など、どうでもよいわ! そもそも、初代王が出自身分定かならぬ我が王国……是が非にも、ほしい……!! そうだな、ヴァルグよ……!)
その夜、さっそくルートヴァンはオネランノタル、リースヴィルと共に魔力通話でペッテル、それにリースヴィル(2号)と打ち合わせを行った。
「聖下が……さようなことを……!」
ペッテルも、驚きと感慨深さの入り混じったなんとも云えない感情に、そう云ったきり言葉が出なかった。
「ペッテルには、引き続き古代ドルム以前の世界固定例を調べてもらいたい。それが、我らの救世の鍵となるのは確実だ!」
「畏まりました! しかし……」
「しかし、なんだ」
「聖下の御条件が、少し気がかりです」
「……というと?」
ルートヴァンが食いついた。
「今の御話しですと、聖下が力を取り戻すのを妨げないのが第一条件。我らの救世が、聖下の御力を奪う法であれば、聖下は御抵抗なされるということ」
「確かに、そうだ」
「次に、聖下が元の世界に御戻りなられるのに、否やは無いということ。それはそうでしょう。であれば、皇帝府やイェブ=クィープが、聖下を元の世界に御戻しする法を先に確立した場合……聖下は、それに御抵抗なさらないということです」
「そうなるだろうな」
「では……」
「これは、あえてこう云うが……聖下を使った救世の法が、現状まったく何も分からない以上、聖下の御力を奪うも何もない。そんなことは、法を確立させて……いや、その法を考えついてから心配することだ!」
「いかさま!」
ペッテルがそう答え、オネランノタルもうなずいた。
「次に、皇帝府やイェブ=クィープが、聖下を元の世界に御戻しする法を確立させたとして……その法より聖下を御護りするのは、我らの役目だ。聖下のほうから望んで皇帝や斎王に接触する可能性もあるが……その時は、どうしようもない。我らの救世は失敗だ」
「そうなるね! 代王、皇帝府やイェブ=クィープに間諜を送る必要があるだろうね! 先を越されないようにね! 情報を仕入れ、いざとなれば妨害するんだ!!」
オネランノタルがそう云い、ルートヴァン、
「なるほど……接触を試みましょう!」
「陛下、イェブ=クィープには、ホーランコル殿らがおられるのでは?」
ペッテルの声に、ルートヴァンが、
「だが、あやつらでは間諜になるまい。そもそも、聖下の使者としてイェブ=クィープに入っている」
「はい、ですから、ホーランコル殿らに協力者を見繕ってもらうのです」
「そうか……!」
ルートヴァンが眼を見開いた。
「流石だぞ、ペッテル! さっそく、そう伝えよう。なに、連中なら、うまくやってくれるだろう!」
「陛下、同時に、ホーランコル殿らには至急、イェブ=クィープを脱出するよう御伝えなさりますよう」
「どうしてだ」
「聖下や陛下は、イェブ=クィープには行かれないのでしょう?」
「そうだな、斎王がそのような考えでは……行って話をしたところで、何がか変わるとも思えんし、新しい情報を得るのも難しいだろう。時間のムダだ」
「であれば、人質として捕らわれか、殺される可能性が」
「む……」
ルートヴァンの表情が、俄かに引き締まった。
「その通りだ、ペッテルよ。さっそく、そのように手配しよう」
そこで魔力通話会議は終わり、決定したことを広間にてフローゼやマーラル、シラールらと共有した。
「いかがですかな、マーラル殿……」
非公式かつ事実上ながら、ストラ派あるいは異次元魔王軍の最高相談役のようになっているマーラル、腕を組んで息をついた。
「ま、ストラ殿に関しては、当面はそうならざるを得ないということだな。で、皇帝府の間諜には、誰かアテはあるのかね?」
「シラール先生は協会の理事ですし……ここは」
「しかし、ヴィヒヴァルンの魔術師はハナから警戒されているだろう。ヴィヒヴァルン以外の魔術師で、皇帝府の内部を探れるような者に心当たりがあるのかね? まして、反魔魂に関することだったら、特任教授になるが……」




