第17章「かげ」 4-19 自壊
(なんだ……なぜ、これほどの風がストラ氏に向かって吹いているんだ!?)
かなり離れたオネランノタルが、異様な空気の流れに驚いた。彼らにとっては、
(魔力も動いていないのに、どうしてこんな猛烈な風が吹く!?)
こういう発想になる。
ストラはここで、もちろん弱っている玄冬に対して超絶大規模熱核攻撃を行っても良いのだが、ストラがこの世界で活動する第一目標が「エネルギー回復」である以上、無駄な攻撃はむしろ自己判断プログラム上不許可となる。ゴルダーイやロンボーンとの戦闘で、そう学習した。
玄冬が、最期の判断を迫られた。
このままただ硬直していても、すべてのエネルギーを奪われて、ただの死体に戻るだけだ。
かといって、この状態でストラにどんな攻撃を仕かけても、返り討ちなのは確実。
(……で、あれば……)
玄冬が、瞬時に全残存霊子力を集中させた。
ストラが、最期の反撃を察して、余剰エネルギー回収フィールドの出力をあげる。
とはいえ、所詮はサブサブ機能であり、一度の回収量に限界がある。
玄冬は、それを見越して、賭けに出た。
「ヌオオオオオ!!!!」
空間制御をかけ、ストラを含めて自らの周囲を強引にへし曲げた。
「!!」
自動的に、ストラが対空間攻撃防御に入る。
回収フィールドが消失し、攻撃用の全プログラムを圧縮して、超絶的乱数空間中和準備に入った。
ひん曲がった空間の内側を滑り、玄冬が瞬時にストラの背後に回って、その背中から羽交い絞めにした。
パワーではとてもかなわないが、空間固定術をかけたので、空間ごとがっちりと掴んで動かなかった。
「ゲボァハハハハハハハハハ!!!! ガヴァアアアーーーッハハハハハハハ!!!!」
玄冬の哄笑が轟いた。
(……御さらばに御座る……御屋形様……)
玄冬がさらに空間を爆縮!!
その特異点を中心に、強制的に反転させる。
瞬間的に、ストラが頭上でプラズマによる強力な点滅発光を放った。
空間が歪んでいたので光が曲がり、かつ拡散したが、オネランノタルには信号として伝わった。
「イマスグ ニゲロ ソラノウエ」
ストラは魔力通信ができないため、あらかじめ設定しておいた点滅信号だ。
「!!」
オネランノタル、全魔力を推進力に使い、まっすぐ天に向かって逃げた。
玄冬が強引に爆縮した空間で、ついに事象の地平線がねじれた。
そのまま一転集中し、限界を突破。
一気に崩壊した。
そうして、連鎖的に大規模空間陥没が起きた。
「このまま見知らぬ空間へ消え去るがいい!! 異次元魔うぅおおおおオオオオオオ!!!!」
空間破砕効果に耐え切れず、玄冬がまず8体に分裂。
その8体が、それぞれ空間を巻きこんで自爆……いや、自壊した。
次元陥没球体が8つ出現し、それらが回転しながらさらに渦を巻いて急速的に合わさって、直径が10キロはありそうな巨大な次元破砕効果の球体となった。ブラックホールのように周囲の物質を吸いこみつつ、時空が歪んでゆっくりと流れながら異次元に向かって陥没した。
オネランノタルは成層圏をこえ、周囲が暗くなってくるまで真上に逃げて、ようやく地平線の端が丸い眼下を確認した。
(……なんだ……これは……!!)
四ツ目を見開き、バーレ王国のある辺りを凝視する。
巨大な半透明の黒い球体が大地を抉って浮かんでおり、すり鉢状に空間が歪んで陥没している。そこへ向かって、水が流れるようにバーレの全てが吸いこまれているようにしか見えなかった。
(あ……! あんなことが起きるのか! 現実に……!! あ、あれでは、さしものストラ氏もただでは済まないか……あるいは……!!)
四ツ目のうち、二つの目元をピクピクと動かし、オネランノタルが鮫歯を歯ぎしりする。




