第17章「かげ」 4-13 屠城
「そうか、魔像兵であれば、影の魔王を倒すほど力はない。入れ替わりを許さず、延々と魔像兵の相手をしてもらうという寸法か……!」
「2万体の敵です、大規模次元攻撃でもない限り、そう簡単に全滅はさせられないでしょう。その隙に、私がマーラルさんにもらった道具で、敵魔王の入れ替わりを封印します」
道具と云っても紙の台紙を折り重ねて八角形にしたものにすぎないが、複雑な呪法が仕こまれている。呪符の塊だ。効果はあるだろう。
「入れ替わりさえ封じてしまえば……私の敵ではありません」
「だね!!」
オネランノタルが四ツ目を見開き、ニンマリと鮫牙を見せて笑った。
「ですが、気になることがひとつ……」
「なんだい、ストラ氏」
「ゲントーなる魔王は、最大で8体の同時存在体同士が合体します。その際、観測上単純計算ですが、戦闘力が乗倍増しているものと思われます」
「乗倍!? ……ということは、3体で3乗、5体で5乗、8体で……」
「8乗です」
「8乗……」
「そうなれば、おそらく単体でも私や他の魔王に匹敵する力を得ると考えられます。そうなった場合、オネランノタルは迷わず避難してください。オネランノタルの能力では防御不可能な攻撃の応酬になります」
「……分かったよ、ストラ氏!」
笑みを消したオネランノタルが、力強く云った。
「では、作戦開始します」
「よし!」
オネランノタルが応えるや、2人が飛翔を再開した。
そのまま100kmほどをものの10分ほどで踏破するや、眼下の白と茶色の大地に夕刻の王都が見えてきた。巨大な版築塀に囲まれた人口30万ほどの大都市で、都市全体がフエン城を形成している。その城内の一角には広い王宮があり、さらにその一角には裏王家の本拠である古寺も見える。
速度を緩め、大きく回りこみながらストラが、
「オネランノタル、魔像兵を投下してください!」
「了解した!」
オネランノタルが、王都上空で次元格納庫を開いた。
まるで輸送機から降下されるように……黒い粒が10列に一直線となって、2万の魔像兵が2000ずついっせいに降下を始めた。
高度はおよそ300メートルほどだったが、魔像兵はパラシュートも使用せず、そのまま落ちるように降下した。
地面に到達する直前に強力なホバーで衝撃を吸収し、そのままホバー走行に移行。
螺旋状にフエン城に殺到した。
また、一部は上空から直接城内に侵入した。
都民は異次元魔王軍がバーレを侵略していることなどまったく知らされていなかったが、この10日ほどで王都が臨戦態勢になっていることは承知していた。
とはいえ、いきなり空から魔像の軍団が降ってくるとは、想像もしえない。
「敵なのか!?」
城壁の上の櫓や楼閣に詰めている見張りの兵士たちも、当初は何が起きているのかさっぱり分からなかった。
その櫓や楼閣の屋根を突き破って魔像兵が建物に侵入するや、モノアイより光線を発射して火を放った。さらに、幅10メートルはある城壁の上の広い通路に降り立った魔像兵はすぐさまホバー走行で進み、同様に城壁の上に設置されている小屋や楼閣をことごとく襲撃した。
15分もしないうちに、広大な城壁の上は松明のように燃えあがって、火達磨になった見張りの兵士が高さ30メートルはあろう城壁から続々と転げ落ちた。
さらに、王都に殺到した魔像兵が東西南北の城門に吶喊。巨大な鋼鉄の扉を数体の集中熱線で吹き飛ばし、溶融した鉄と噴きあがる炎の中を、続々かつ粛々と王都に突入した。
王都は先般フローゼが200を率いて突入したハウオイ城の10倍近い規模があったが、突入した兵は100倍だったので、城内はたちまち火の海となった。
業火に焼け出され、また魔像兵に蹂躙されて阿鼻叫喚が天まで轟き、死体が山と積み重なった。なにせ、魔像兵は略奪をすることもなくひたすら殺戮に徹したので、とにかく住民はひたすら死んでいった。訳も分からず、ただ死んだ。老若男女の分け隔てなく、鏖だ。虐殺というレベルですらない。アリの巣にガソリンを流しこんで火をつけても、これよりは死なないだろう。
王都には近衛兵と守備兵を合わせて15万の兵がいたが、不意を打たれたうえに魔像兵と正面からやりあって、こちらも凄まじい速度で数を減らしていった。
そして魔像兵、馬よりも速い速度でそのまま容赦なく王宮にも突入。
王宮は、たちまち凄まじい勢いの火に巻かれた。




