第3章「うらぎり」 5-4 シュベールとの対話
ピアーダ将軍がラグンメータ臨時司令官に臣下の礼を取り、以後、配下としてフランベルツを攻略する先陣となる。
てっきり停戦協定を結んだとばかり思っていたフランベルツ兵は、決戦準備が発令され、にわかに殺気立ち騒然とし始めたことに戸惑った。
「な……なんだ、一体どこと戦うんだ?」
「マンシューアル……じゃあねえよな。アイツラ、目の前に陣取ってるし」
既にラグンメータ率いるマンシューアル軍は、スラブライエン市の目の前に臨戦態勢でそろっている。ンスリーとサンタールが全軍を再編成し、二隊に分けて率いていた。
「だいたい、将軍と敵さんの大将が握手して、宴会までしてたろ」
「噂だとよ……将軍が寝返って、これからガニュメデを攻めるらしい」
「バカ云え、この……」
などと云う兵士達の噂話を聞いて、シュベールもド肝を抜かれた。
なんとかして、ストラと合流し、真相を確かめようとした。なぜなら、
(ストラのついたほうが、勝つに決まっている……ストラは、どっちについている!? マンシューアル軍だと思うが……!)
それを確認し、行動を合わせるつもりだ。
(オレだって死にたくない。それに、ピアーダ将軍と同じだ。都生まれ都育ちの地方伯は、オレたちフランベルツ人を見下していやがる……!)
シュベールは商人に化けて出撃準備に余念がない市庁舎に紛れ、ストラ達の行方を探した。なかなか見つからず、もしかしたらマンシューアル軍に戻っているかと思ったが、ひょっこり街中を歩いているプランタンタンとフューヴァを発見し、あわてて駆け寄った。
「おい、おい! オレだ! オイ!」
「アレッ、シュベールの旦那じゃあごぜえやせんか」
呑気なプランタンタンの声に、拍子抜けしたシュベールがガックリと肩を下げた。
「ちょっと、いいか……」
シュベールは二人を道路の隅へいざない、
「ストラさんと話がしたい……いるのか?」
「ええ、ちょうど、軍議から帰っていやあして、いま、いやすよ」
「そいつはいい! 案内してくれ!」
「……あっしらは、着替えを買いに行こうかと思ってたんで」
「着替えなんか、軍からいくらでも配給されるだろう!」
「それが、アタシらはあくまでストラさんの従者だし、サイズも合わなくて……」
フューヴァが小首を傾げ、片眉を上げてそう云う。確かに二人とも細いし、プランタンタンは少年召使の衣服を着ている。それも、今回のマンシューアル行でボロボロだ。急ぎ、仕立て直すという。
「二人とも、もう金持ちだろ? そんなの、いつでもできるじゃあないか」
「それが、シュベールの旦那、そんなに時間がねえんで」
「アンタなら、分かるだろ?」
もちろん、分かる。出陣が近いのだ。
「じゃ、じゃあ、部屋の場所を教えてくれよ、オレ一人で行くから」
「はあ……」
仮宿の場所を聞き、シュベールが小走りに急いだ。既にスラブライエンの地理は、完璧に叩きこんである。近道を走って、すぐに到達した。宿屋ではなく、軍で借り上げている民家の二階だった。
家の者に名乗り、ストラを指名すると、すぐに二階へ通してくれた。
「ストラさん、私だ、シュベールです!」
入室するやそう云うと、
「知ってます」
壁際に立って腕を組み、窓どころか壁を見つめていたストラが、ぶっきらぼうに答えた。
シュベールがストラに近づこうとし、あやうく床に転がって酔いつぶれているペートリューを踏みそうになった。その猛烈な酒臭さと体臭に、さしものシュベールも声をかける。
「ペートリュー君! 今は無きギュムンデ最下層地区の浮浪者もかくやだよ! ストラさんに同行するのだから、もうちょっと小綺麗にした方がよくないかね!?」
ペートリューは呻き声を上げるだけで、ピクリとも動かなかった。魔法使いの職能ローブも、雑巾で作ったように薄汚れている。
「やれやれ……」
「シュベールさん、何の用ですか?」
「あ! そうそう……」
シュベールが壁際のストラに近づき、
「ストラさん、いつまで、マンシューアル軍に雇われるつもりですか!?」
「よくわかんない」




