第17章「かげ」 4-11 譚鳳麗と泊瀬川玄冬
泊瀬川玄冬が製造された世界では、各種のアンデッドが自律式の強力な兵器として実用化されていた。そして、そのアンデッド類を統率する能力者が戦場や特殊工作活動、あるいはアンデッド同士の戦闘興行で活躍していた。
その世界は魔法文明ではなかったが、霊力や生命力を機械的にコントロールする法を確立していたので、一種の霊能科学文明と定義できたし、それを魔法科学と呼んでもおかしくなかった。
玄冬は、その中でもかなり強力かつ特殊な能力を持った個体だった。
従って統率にも玄冬に合わせた能力やコツが必要で、統率できる能力者は限られていた。
ただ、その世界でも多次元同時存在体は他に例がなく、玄冬の異様さは際立っていた。また、玄冬型の他の地獄忍者(玄冬を含め、青春、朱夏、白秋の計4体製造された)でも、多次元同時存在体は認められていない。
つまり、この多次元同時存在という特殊能力は、玄冬固有のものであった。
では、なぜ玄冬にのみそういう能力が生じたのかは、分かっていない。
一説には、玄冬の元になった……つまり、生きた人間だったころの名も知らぬ何者かが、その能力保持者だったのではないか……と云われている。
その力を、アンデッドになっても引き継ぎ、強化されたのだ。
玄冬がこの魔力世界に到達したのは、他の次元漂流者であるタケマ=ミヅカ、ロンボーン、ストラと少し事情が異なり、何らかの作戦行動か何かで自ら多次元を渡り歩いていた際に、ある意味、迷いこんだのだった。
そして、この世界に居ついた。
理由は玄冬にしか分からない。
そこで出会ったのが、魔族ブーランジュウだった。
この両者は、人間には理解できない機微で、親しくなったというのは語弊があるだろうが、とにかく敵対しなかったし、協力することもあった。
その後、ブーランジュウはタケマ=ミヅカに心酔し、帰依した。
さらにその後のとある機会に、ブーランジュウはタケマ=ミヅカに玄冬を紹介した。
タケマ=ミヅカのいた世界にはアンデッドが存在したため、タケマ=ミヅカは一目で玄冬の正体に気づき、即座に支配した。
支配できたのは偶然だった。
タケマ=ミヅカの元居た世界……つまり、武満観水樹魔導博士のアンデッド支配術が、玄冬にもピタリと合ったのだ。
このことは、もし武満博士が玄冬のいた世界に漂着していたら、格別に優れた能力者として活躍していただろうことを意味している。
さて、タケマ=ミヅカは、玄冬を支配してから、多次元同時存在という特殊能力を知った。
しかし、武満博士の世界では理論すら存在しない存在だったので、正直、タケマ=ミヅカはその価値や凄さをあまり理解していなかった。倒されてもすぐに復活するということが、最終決戦までほぼ目にすることが無かったのも大きかった。なぜならば、タケマ=ミヅカは玄冬を徹底的に諜報活動や戦闘補佐、時には暗殺に使用し、主敵とはまともに戦わせなかったからである。
また、それは本来の玄冬の正しい使い方でもあった。
そのため、玄冬の真の力に(なんとなく)気づいていたのは、マーラルと譚鳳麗のみであった。
それでも、両者とも玄冬とは本当に滅多に遭遇しなかったので、最終決戦まで真の力について確信が持てないでいたし、マーラルに至っては「だからどうした」という心持ちで、つまり興味が無かった。
従ってタン=ファン=リィのみが、玄冬がタケマ=ミヅカの支配を逃れる瞬間を虎視眈々と狙い、まさに決戦も最終盤の土壇場で、その機を逃さず、一瞬で玄冬を捕らえたのだった。
というのも、バーレの……というより、譚家の支配していた世界の裏側の古代王朝……「伊」の秘術に「死体を操る術」があったのだ。
これは一種のアンデッドともいえたが、どちらかというと操り人形の一種で、人形が死体というだけだった。
従って死体とはいえ自由意思まである玄冬を、完全に支配するのは並大抵ではなかった。
タン=ファン=リィの強力な力と特殊な呪法で無理やり押さえこんだが、タケマ=ミヅカの偉大さを思い知るだけだった。どうやってタケマ=ミヅカが玄冬をああも完璧に支配していたのか……少しでも探っておくのだった……と、タン=ファン=リィは顔を後悔にゆがめた。
その後、初代バーレ王となった孫の代になんとか短時間だけ使役することができた。
が、そのために……玄冬を使うために……どれほどの魔力と生命力を消費し……術者が命を縮め、あるいは憑り殺されてきたか……。
いつしかタン=ファン=リィの法も術理が失われ、ただ操作するだけが精一杯となり……オーパーツと化した玄冬を使える者は、バーレの裏王家でも特に能力のあるものが出現する数十年から百数十年に一度となった。
玄冬は実体を持っており、実戦闘力は準魔王級である。くわえてアンデッドなので、能力として人間を憑り殺すこともできるし、呪い殺すこともできる。あるいは生命力を吸いつくして殺すこともできる。




