第17章「かげ」 4-10 あの3人
「ま、そう云うことにて」
マーラルの言葉にルートヴァンがそう答え、フローゼは肩をすくめた。
「まずは、聖下が戻られるのを待つとしますか……」
「戻るといいがね」
マーラルが、皮肉をこめた薄ら笑いでそう云った。
「ストラ様が、ゲントーに負けるとでも?」
フローゼが、いかにも心外だというような声で、云った。
「勝っても、ここに戻るとは限らないじゃないか。1人で、どこかへ行くかも。かの御方の行動原理は、誰も分かっていないだろう。違うか?」
「いや、きっと戻られますよ」
ルートヴァンが静かにそう云い、マーラル、
「なぜわかる」
「あの3人がここにおります」
「あの3人……?」
マーラルが少し、考え、
「ペートリューたちのことか?」
「いかさま」
「じゃあ、この機会に聞くがね……あの3人は、なんなのだ? なぜストラ殿はあの3人をそこまでして保護し、追従を許している? なんの意味があるんだ?」
「それはですな……」
ルートヴァンがそこで少し間を置いたので、フローゼとマーラルが嫌でも注目する。
「まったくもって、分からないのですよ」
ルートヴァンがそう云って自分で高らかに笑いだしたので、マーラルとフローゼも笑ってしまった。
「なんだい、それは……」
マーラルが苦笑し、ルートヴァンが、
「ただ、唯一分かっているのは、ストラ様がこの世界に現れてから、最初に深く関係したのがあの3人なのです。私とストラ様が知り合ったときには、もう3人はおりました。ストラ様の救世を後世まで伝えるとすれば、あの3人は神と最初に接触した聖人か何かとして伝えられるでしょうな」
「ペートリューが聖人かね! そりゃあいい! 面白い! ハハハ、そりゃ愉快、痛快だ!」
珍しく、マーラルが大声で笑いだした。
「なるほど、それで、3人が街に出るのを許さなかったの?」
フローゼの指摘に、ルートヴァンが、
「それもそうだが、実際、あの3人がストラ様の最優先保護対象なのも事実だ。僕のせいで何かあったら、救世どころかストラ様がこの世を亡ぼしかねない」
(なるほど……この世界の命運には、そういう選択肢もあるのか……)
フローゼが、神妙な表情でルートヴァンを見つめた。
「では……なんにせよ、まずはストラ殿の意思と思惑を確認するところからか……我々の救世は」
マーラルがそう云って、立ち上がった。
「そういうことですな。マーラル殿も、城でゆるりと御休みを……それとも、帝都のあの世界へ戻られますかな?」
「戻るのも億劫だよ。御言葉に甘えさせてもらおうか」
「おい」
ルートヴァンが扉の向こうへ声をかけると、従者が現れた。
「無楽仙人様を、貴賓室へ」
「畏まりまして御座りまする」
従者が深く礼をする。
「では」
「ああ」
マーラルが、部屋を出た。
「お前はどうする、フローゼ。同じく貴賓室でいいのか?」
「私は必要ありません。せっかくなので、王都見物を。長い旅でも、ヴィヒヴァルンは意外と訪れていないので。あの3人には悪いけど」
フローゼがそう云って笑い、
「揉め事は起こさないでくれよ!」
「なるべくね」
フローゼがそのまま、笑いながら部屋を出た。
そしてルートヴァンが残ったリースヴィル(4号)に、
「お前は、ここで僕の作業を手伝ってくれ。ペッテルにも頼んであるが……聖下がタケマ=ミヅカ様と異なる法で世界を救世する手がかりは、古クールプールラーン神以前の世界の固定法にあると思う。まったく魔力を使わないというのは、例がないかもしれないが……何か、あるはずなのだ。それを探し出し、新たに救世の法を考えねばならない。マーラル殿ではないが、我々の救世をな!」
「畏まりました!」
これまでいっさい口を利かなかったリースヴィルが、満面かつ不敵な笑みでそう答えた。




