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第17章「かげ」 4-8 何も考えていない

 「な……!?」

 フローゼが、気絶せんばかりに大口を開けてマーラルを凝視した。

 そして、ルートヴァンを見やって言葉を待った。


 「その時は、潔く世界は滅ぶしかありません。我々の誰も、異次元魔王様にはかなわないのですからな」


 「それが分かっているのなら、いい」

 マーラルが、深くうなずいた。

 「よよッ、よくはないでしょう、よくは!」

 無理もないが、思わずフローゼが叫んだ。

 「あなたたちは、何をそんな、すました様子で……!!!!」


 「待て、フローゼよ。これはもう、人知を越えた話だ。我らごときが何をどうあがいたところで、世界など救えはしないのだ! ストラ様に、賭けるしかないんだ……!」


 ルートヴァンが悲壮に目を細めて、絞り出すようにそう云った。マーラルも、神妙な面持ちで大きく息をついた。


 「そんな……!!」

 フローゼが愕然として、言葉を失った。


 「……しかし、フローゼよ。僕はな、それほど悲観的ではないんだ。何故ならば、そのような者をタケマ=ミヅカ様が後継に見初めるかね?」


 「そう云われても、私はタケマ=ミヅカ様って人を知らないもの!」

 「ああ、そうか。……マーラル殿は、いかがです?」


 「正直、分からんなあ。私は、タケマ=ミヅカ殿が神となった後は、それほど会っていないんだ。1000年間で、何回かだよ。それも、5回より少ないと思うよ」


 「そうなんですか」

 それには、ルートヴァンが驚いた。マーラルが、


 「おそらくね……おそらくだが、皇帝やイェブ=クィープの祭祀王は、そのあたりを危惧しているのではないかね。異次元魔王に、救世は無理だ……と」


 ルートヴァンが、返事の代わりに唸り声を発した。


 「皇帝府には、タケマ=ミヅカ殿を狙う異世界の謎の敵を、元の世界に押し返す法があったはずだ」


 「そんなものがあるんですか!」

 ルートヴァンが、そう云って眼をむいた。

 「知らなかったか?」

 「知りません」


 「あったはずだ。いや……あるよ。反魔魂マルト……だと思ったな。学院長に聴いてみるといい。戦って打ち倒すばかりじゃ、持たないんだ。それほど強力な敵が次元のひずみから現れ続けているんだ、あそこ・・・は」


 そこでルートヴァンがピンときて、

 「え……つまり、ストラ様を、元の世界に帰そうとしている勢力があると?」


 「皇帝府が異次元魔王に非協力的と云うなら、少なくともそう思ってるんじゃないか? それにイェブ=クィープが加わるとなると、厄介だぞ」


 「ううん……」

 ルートヴァンが唸って眼をつむり、腕を組んだ。


 「……ストラ様を元の世界に戻して……それから、どうするつもりなんでしょう?」


 「それこそ、知らんよ」

 マーラルが、他人事ひとごとのように肩をすくめる。

 「新たな救世者を探すつもりなのか……?」


 「異次元魔王を戻すというのなら、この世界で探すか、もっと適したものがこの世界に流れてくる・・・・・のを待つしかないだろうさ」


 「そんな、馬鹿な!」

 思わずルートヴァンが声を荒げた。


 「そんなものを待っていては、世界は滅びますよ! いまストラ様がいるのは天祐! ストラ様を何とかして……!!」


 その、何とかする法が分からないのだ。ルートヴァンは黙りこんだ。

 そのまま3人ともしばし黙りこみ、やがてマーラルが、

 「いちど、ストラ殿の考えを聴いてみたらどうかね……」

 「聖下の?」

 ルートヴァンの表情かおが強張った。


 「聴くのが、恐いのかね?」

 「それは……恐いですよ。聖下の御考えなど……畏れ多くも……」

 「私はね、何も・・考えていない・・・・・・と思うよ、ストラ殿は」

 その衝撃的な言葉に、フローゼも眼をむいたし、ルートヴァンは息を飲んで、

 「な、なにをおっしゃるか! マーラル殿!! 何を根拠に……!!」


 「だって、あの方はこの世界のことについて、考える必要がないじゃないか。漂流者だよ。しかも、あの方は……なにか、思考や行動に縛りがあるように見受けられる」


 さすが、マーラルはこの世界におけるストラのプログラム上の制約を見抜いていた。

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