第17章「かげ」 4-7 根本から覆す話
「おい!」
ルートヴァンが云うや、魔法騎士や魔術の心得のある上級従者が文字通り飛んできた。
「御呼びで!」
「この方々を、使用人の宿舎で空いているところへ御案内しろ。3方の希望で宿舎に入るが、僕の客だ。あとは分かるな」
「畏まりまして御座りまする!!」
騎士と従者が深く礼をしたので、あわててフューヴァが、
「おいおいルーテルさん、堅苦しいのはナシだぜ! 頼むよ」
「分かってるよ。……お前たち、この方々の好きにさせてくれ。ただし、くれぐれも勝手に街中など行かせないように! それは、こっちこそ頼んだよ、フューちゃん、プランちゃん、ペーちゃん!!」
「それこそ分かってるって……うっせえなあ。アタシは大丈夫だ。問題は、プランタンタンとペートリューだぜ」
「どうしてでやんす、あっしも御金様にもならねえのにウロチョロなんかしねえでやんす。ペートリューさんが、オネランの旦那もストラの旦那もいねえでやんすから、酒がなくなってこっそり町まで買いに行くにきまってるでやんす」
ペートリューは照れ隠しなのか誤魔化しなのか分からない、うすら不気味な笑いを浮かべてボサボサの赤い髪を掻くだけだったが、ルートヴァンは、
(ペーちゃんのことだから、本人は何もしていないつもりでも、王宮の魔術防御を無意識に片端から突破して街に出るんだろうな)
内心そう思って、それはそれで見てみたいと正直に思いつつ、
「ペーちゃんは、城の酒蔵で好きなものを好きなだけ飲んでいいから……」
「え、ホントですかあ? エヘェフヒヒ……じゃあ、さっそく、蔵に連れて行ってください」
ペートリューが従者にそう云い、従者が、
「畏まりまして御座ります」
と云ってペートリューを案内した。
「御手柔らかに頼むよ!」
ルートヴァンがペートリューの後ろ姿にそう叫び、苦笑する。
「じゃ、アタシらは、エンリョなくここでストラさんを待たせてもらうぜ」
フューヴァがそう云い、ルートヴァンが従者と騎士に向けて小さくうなずいた。
「では、御ふたりともこちらへどうぞ」
従者が2人をいざない、その後ろを騎士が警護する。
「だから、大げさなんだって……」
フューヴァがいつまでもブチブチ云いながら遠ざかるのを見送って、ルートヴァン、
「では、フローゼ、リースヴィル、マーラル殿。いずれも、休息は必要ないだろう。打ち合わせを行いたい。……我らの救世の旅を、根本から覆す話になるだろう」
(根本から?)
フローゼが、緊張と不安に表情を引き締めた。
そのまま、ルートヴァンの私室にフローゼとリースヴィル、それにマーラルは通された。正確には、私室につながる大きな控室で、ルートヴァンが資料室に使っているところだ。
「適当にかけてくだされ」
ルートヴァンがそう云い、自らも椅子を引きずってきて座る。フローゼが、そこらのソファの資料をどかして、マーラルと共に座った。リースヴィルは立ったままだった。
「実は、ホーランコルからも連絡があってな……」
「ホーランコルから? いま、イェブ=クィープに先行してるんだっけ?」
フローゼが、そう高い声を発した。
「そうだ。うまくイェブ=クィープの祭祀王に接触し、タケマ=ミヅカ様の生まれ故郷で、資料を閲覧できる立場になったそうだ」
「すごいなあ。どうやって?」
「よく分からんが……流石ホーランコルだというほかはない。それよりな……フローゼよ。これは、以前ペッテルからも指摘されたことで……マーラル殿も、御気づきのことと思うのだが……イェブ=クィープの祭祀王に、ズバリ指摘されたことがあるそうだ」
「何を指摘されたの?」
ルートヴァンはやや口に出すのを躊躇していたが、
「ストラ様と、タケマ=ミヅカ様では、救世のやり方が異なるのではないか……という話だ」
リースヴィルは眼を細め、フローゼは逆に丸くした。
「ど……どういうこと?」
ルートヴァンはそこでマーラルに目をやり、
「マーラル殿は御分かりで?」
「まったく分からんね」
「では、御得意の推測を」
マーラルが小鼻で苦笑し、それから真面目は顔つきとなって、
「いいかね、異次元魔王は、魔力の無い世界から来たのは明白で、いっさいの魔力を使わず、この世界の魔王を次々に打倒するほどの力を発揮している。その法は、我々には全く理解できないし、再現も不可能だろう。タケマ=ミヅカ殿と事情が異なるのは、当たり前だ。異次元魔王は合魔魂もできないだろうし、つまり、魔王をすべて倒したとして、どうやってタケマ=ミヅカ殿が成りあがった世界鎮守の神となるのか……誰にも分からん。当の異次元魔王本人も分からんだろうさ、そんなもの。その法を、我らが考案しなくてはならない。そして、そもそも、異次元魔王……ストラ殿は、この世界をどうしようとしている? 景気よく魔王を倒してまわっているが、この世界を救う気はあるのか? なんのために魔王を倒している? 代王や我らだけで勝手に盛り上がっておいて、最後の最後に異次元魔王と戦うことになったら、目も当てられんよ」




