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第3章「うらぎり」 5-3 寝返り


 

 ・ラグンメータが、カッセルデント将軍とピアーダ将軍の癒着を把握していること

 ・カッセルデント将軍を謀反の疑いで監禁したが、急死したこと

 ・ピアーダ将軍はフランベルツ地方伯に癒着を知られたくなかったら、謀反を起こしラグンメータに味方してマンシューアル軍の侵攻を助刀すること



 およそ、大意はこうである。

 「こ、こんな……バカ……な……!!」


 執務机のピアーダ将軍はそう云ったきり、息も動作も止まって、脂汗をひたすら流すだけとなった。


 直立しているンスリーと副官、それに秘書兵が、その様子を緊張感に包まれて凝視する。


 副官のセンバレンは、ピアーダが無益な戦争を嫌い地方伯の命令に逆らってカッセルデントと示し合わせて軍務をサボタージュしているのを知っていた。なぜなら、防衛だけではなく、機があればマンシューアルに攻めこむよう命令されていたからだ。こちらからマンシューアルを攻めるなど、無謀の極みと云えたし、だいたい、どこまで攻めるのか、攻めてどうするのか、何も聴いていない。攻めようが無いし、攻める理由も無い。


 平和主義、人道主義の観点から見れば、二人の将軍の行いは「正義」である。

 しかし、この世界にそんな主義は存在しない。


 両将軍が戦争を嫌がったのは単に保身のためだったし、軍令違反にして君命違反なのは明らかだった。


 「……私に、降伏しろと……!」

 「降伏ではありません、将軍閣下」

 ンスリーが、流暢なフランベルツ語で云った。

 「では、寝返りか」

 「いかさま」

 「謀反を起こせ、と」

 「もう・・起こしている・・・・・・でしょう……」

 「む……しかし……」

 「閣下には、選択の余地はございません」

 「しかしと云っているだろう!」

 「では、選帝侯地方伯閣下に、マンシューアル藩王名にて御注進を……!!」

 「待て、待て待て!」


 踵を返したンスリーが止まらなかったので、ピアーダが手を上げた。執務室内の五人の兵士が剣を抜き、ンスリーと四人の兵士に突きつける。マンシューアル兵らも、護衛用の短剣を抜いた。


 とたん、バチン! バチン! と電気の弾ける音がして、フランベルツ兵が次々に倒れ伏した。ストラの浮遊させていた弱球電が、壁すら超えて突き刺さったのだ。


 「こ、ここ、こ、これは……!?」


 「いま、最強の魔法剣士ストラ殿は、我らが高額で雇っております。カッセルデント将軍の攻撃から我が臨時司令官を護り、かつ、将軍を捕らえたのもストラ殿です。この意味がお分かりですかな?」


 「う……ス、ストラがそちらについたとは、噂には聞いていたが……本当だったか……」


 ピアーダの顔が、見たことも無いほどに歪んだ。


 (ギュ、ギュムンデの滅亡を探知したほどの魔法の使い手だ……私とカッセルデントのことも……はなから気づいていたに違いない……進退……きわまったか……)


 大きく深呼吸し、その表情が次第に落ち着いて、決意を秘めたものに変わってゆく。

 「御決心なされましたか」

 満足げに、ンスリーが訪ねた。


 「私が先陣だ。勝算はあるのか? ラグンメータ殿に続いて、マンシューアル藩王本軍は援軍に来るのか? そして、フランベルツを滅ぼしたのち、私はどうなる?」


 「勝算はもちろんあります。閣下の軍に、臨時司令官の命令でストラ殿が加わります。マンシューアル藩王本軍は、後詰めとして国境付近を警護するでしょう。あくまで、ラグンメータ臨時司令官が総責任者にして総大将です。フランベルツは、当面ラグンメータ臨時司令官が総督として治める地となりましょう。ピアーダ将軍閣下には、副総督の地位を」


 「その言葉、忘れるなよ」

 「もちろん」

 ピアーダが席を立った。


 「いいだろう。地方伯の、地方をないがしろにする治世と人使いの荒さには、フランベルツ人として思うところがあるのも事実だ。中央ばかり見て、足元を全く見ていない。地方を治めるに不足する人物だ。何のための地方伯か、分かっていない」


 「流石、名にし負うピアーダ将軍! では、さっそく臨時司令官へ謁見を!」

 「まかせる」


 ンスリーが急いで戻り、二日後には、これまで何度か小競り合いが行われた平原で、マンシューアル軍とフランベルツ軍の両代表団が会見した。

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