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第17章「かげ」 3-20 天の眼

 「本当に甘いな! こんな甘いものは久しぶりだ。うまいよ、トラル。有り難い!」


 そのまま、ぬるめの緑茶も一気に飲み、落ち着いた。タケマ=トラルがそれを見やってうなずき、


 「ヴィヒヴァルンへどのように報告するかは、皆さんに御任せします。魔術の鳥でも飛ばすのでしょうが……それを邪魔するものは、この国にはおりません。次は、タケマ=ミヅカ様の御大業を伝える館へ参りましょう。そこもやしろになっており、ミヅカ様を祀っております」


 「帝都の三神をここでも?」

 キレットがそう質問し、

 「いいえ、神に成られる前のタケマ=ミヅカ様を神として御祀りしております」

 「……意味が分かりませんが」


 「この国の、独特な考え方ですよ。人を神として御祀りします。神と成られたほうも、御祀りします。どちらも、神にて」


 「なんでもいい。我らが無理に理解する必要はない。さ、そこでタケマ=ミヅカ様のことを学ぼう」


 ホーランコルが決然と云って、タケマ=トラルが立ち上がった。



 神祇庁を出た一行は、うっすらと雪が積もった道を歩き、山を下りて正面の大階段に戻った。


 そこから巡礼の人びとにまじって大階段を少し登って、神祇庁とは反対側の横道に入る。


 そこも門のような大きな鳥居があったが、特に衛兵などはいなかった。


 そこから山の中をややしばらく歩くと、道が開けて大きな敷地となり、幾つかの瓦屋根に朱色の建物があったが、正面にひときわ大きな御堂が建っていた。


 「こちらにて」

 トラルが、一行をその本堂に案内した。


 入るとすぐに畳敷きの講堂で、講師が正面で何か歌うように話しており、イアナバの若者や巡礼者と思しき人々が並んで正座卓につき、懸命に何かを書いていた。


 「皆さんは、こちらです」

 建物の犬走を通って裏に回ると、中規模の建物がいくつかあった。

 その中では最も大きな建物に、トラルは4人を案内した。


 トラルが刀を預け、また一行も玄関でまた履き物を脱いで中に入ると、博物館のような資料室だった。広い板の間に台があって展示物が並び、また壁や天井際には額装された絵が飾ってあったし、絵巻物や掛け軸も多数あった。


 「……なんですか? これは」

 ホーランコルが眉をひそめた。

 「もしかして、子どもや字が読めない者のために、絵で説明を?」

 キレットがそう気づき、トラルが満足そうにうなずいた。


 「左様で。これはタケマ=ミヅカ様の神話・・を細かく描いたもので御座る」

 「ほう……」

 そう云われて、ホーランコルも物珍しそうにつらつら・・・・と眺め歩き出した。

 そうして、とある絵を見て心臓が止まりそうになった。


 そこにはタケマ=ミヅカの旅の仲間が(ホーランコルにとっては、ちょっと変わった絵柄で)描かれていたが、その中の1人が、


 (お……!! 御聖女様……!!!!)


 背が低く、ストレートの長い黒髪に、濃いめの褐色肌。どこかこのイェブ=クィープ人の着ている着物にも見える装束を着た、額に赤い眼の文様のあるエルフの少女……。


 のちの聖魔王、ウルゲリアのバレゲル森林エルフ「天の眼」「御聖女」ゴルダーイであった。


 ホーランコルは御聖女を見たことは無いが、その姿は割と正確な伝承が1000年も引き継がれていた。その伝承とほとんど変わらない姿が、このイェブ=クィープの地でも正確に受け継がれていた。


 御聖女信仰を棄て、イジゲン魔王に帰依したホーランコルだったが……生まれてから約30年、魂の髄まで染みこまされた御聖女への信仰は、頭では分かっていても、精神は……心はそうそう変われるものではない。


 「う……あ……!!」


 絵の中のゴルダーイが己をその「天の眼」で凝視し、断罪しているようにも感じ、ホーランコルは細かく震えて後ずさりを始めた。


 「?」

 ほかの者らがそんなホーランコルに気づき、

 「ど、どうした、ホーランコル」


 アルーバヴェーレシュが訪ねた。ホーランコルは俄かに全身が汗で濡れつくし、荒い息で頭をおさえた。


 「具合が悪いのかね?」

 タケマ=トラルも、心配そうに云った。

 「いや……すまない。大丈夫だ」

 ホーランコルが大きく息をついた。


 「なに……自分の問題だ。こんな所で、己の覚悟と決意を試されようとは……!」


 みな意味が分からなかったが、ホーランコルが落ち着いたようなのでまた絵巻物などの鑑賞を再開した。

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