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第17章「かげ」 3-18 タケマ=マキラ

 なお、みな髪型は月代さかやきにちょん髷ではなく、安土桃山時代以前の総髪と髷に近いものである。


 「こちらへ」

 役人に云われ、トラルが一行を大広間にいざなった。


 キョロキョロと物珍し気に周囲を見渡しながら一行が続き、部屋の真ん中ほどで畳に座らされた。


 トラルが一行の前に同じく胡坐で座り、しばらく待っていると、

 「御当主様の御成り」


 そんな声がして、トラルが両拳を畳みにつけて深くぬかづいたので、一行も従った。


 すると、襖の開く音、衣擦れの音がして、一段高い間に当主タケマ=マキラが座る気配があった。


 「おもてをあげよ」


 落ち着いた、澄んだ声がし、一行が顔を上げた。巫女と古代の官服を合わせたような白と赤の斎王謁見装束(略装)を身にまとい、独特の髷に金銀の飾りをつけた女性が正座で座っていた。


 マキラは23歳で当主となり、今年32になる。神祇庁で高位の執政官を務める夫と、娘が2人いる。タケマ家は女系直系なので、何事もなければ長女のカナタが次の当主だ。


 「トラル、久しゅう」


 「ハッ、御尊顔を拝し奉り、恐悦至極。玉命に従い、東方からの客人を御連れして参りまして御座りまする」


 「かしこくも、タケマ=ミヅカ様に続き救世の旅をしておられるイジゲン魔王様の配下と伺っている。タケマ=マキラである」


 4人は一瞬、無言だったが、すぐにホーランコルが、


 「ハ、ハハッ! 畏れ多くも魔王様より貴国に対し先遣し状況調査を命じられました、ウルゲリアのホーランコルに御座います。後ろに控えておりますのは、同じく魔王様の忠実なる配下にて、南部大陸が強力な魔獣使いのキレットとネルベェーン!」


 紹介された両者が、両拳を畳につけて深く礼をした。


 「さらに、かのゲーデル山脈に住まう山岳エルフが強力な魔法戦士、アルーバヴェーレシュに御座います!」


 同じように、アルーバヴェーレシュも鋭い視線のまま頭を下げた。

 微笑みをたたえているが、仏像のように表情を変えずに、マキラが、

 「イジゲン魔王様におかれては、この国へ何用あって参る所存か」


 「ハハァ! 畏れながら、我らが大参謀にしてヴィヒヴァルンが王子大公ルートヴァン殿下におかれましては、タケマ=ミヅカ様御生誕の逸話などを参考に、聖下の今後の動向を決定したいとのことにて。また、いま聖下はバーレ王国において帝国内に残る最後の魔王と戦わんとしております。世界に魔王は8人おるとの由。はるか南方に移封されし魔神と、バーレの魔王、そして未だ正体不明の魔王をのぞけば、すべてイジゲン魔王様が倒されました。その数は4人。しかしながら、正体不明の魔王に関して、帝都の地下書庫において文献をくまなく調査してもなかなかその所在が知れず……なにか、帝国でも最も古き国のひとつである当地において、情報は無いかと……」


 「この世のどこかに魔王が8人おるとは、あくまで古代の伝承である」

 「ハッ……」

 ホーランコル、一瞬、意味が分からず、言葉が詰まった。

 「ハ……あ、と、いうこと……は……?」

 「10人かもしれんし、20人かもしれん」


 ギョッとして、ホーランコルを含めた4人が眼を見開いた。ルートヴァンの作戦を、根本から覆す数だ。


 「そのほう、何故なにゆえかわかるか」

 問われ、ドッと汗をかいてホーランコル、

 「あ……え、あ、いえ……私ごときが……分かろうはずも……」

 表情を変えずにタケマ=マキラ、


 「魔王は称号ゆえ、人が呼べばそれが魔王。自称してもそれが魔王。世に、魔王はいくらでもおるのが実情よ」


 「畏れながら申し上げます! し、しかし、そのような有象無象の魔王もどき・・・と、イジゲン魔王様が戦った相手はまさに別もの・・・にて……」


 「その別物が、500年も経てば本物になるということよ。つまり、8人という数は、およそ1000年のあいだに、実は何人になっているものか、誰にも分かろうはずがない」


 「な……」

 ホーランコル、そのまま絶句。

 いまさら、そんなことを云われても……という思いだった。

 (今、この世界に魔王が何人いるか、誰にも分からない……だと……!?)

 愕然とした表情かおを隠さず、眼が泳いだ。


 (で……殿下に、一刻も早く御伝えせねば……!!)

 ストラが世界を救う作戦が、ここに来て根本から狂う。

 その焦りに、柄にもなく震えだした。

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