第3章「うらぎり」 5-2 ピアーダ将軍への密書
「しかし、いつまでも高い金を払うわけないだろうし……ストラさんに、仕官を薦めるだろうけどよ……」
「たぶん、旦那は仕官なんざしやせんよ。いや、仕官が何かも分かってねえと思いやす」
「すると、どうなる?」
「手っ取り早いのは、敵に使われる前に、旦那を始末……」
「できるのか?」
「できるわけねえでやんす」
二人で苦笑。
「でも、またアタシらを人質にとるかも?」
「そん時はァ……旦那に捨てられたのなら、まあ、それはそれで……。どうせ旦那がいなかったら、あっしなんざ、とっくのとうにこの世にいねえでやんす」
「ちがいない。アタシも、あの掃き溜めの底で野垂れ死んでた」
「おっと、出発のようでやんす……」
まず前衛の兵士が2人、騎馬で進み、次にンスリーとストラが並んで続いた。後衛が同じく2人、角馬に乗って進んで、他は雑兵が8人とプランタンタン達3人が徒歩で荷馬を引きながら続く。総勢、17人だった。
平原を進み、フランベルツ・マンシューアル国境である低い山の切れ目を越えて、3日ほどでフランベルツに入る。ンスリーたちは使者を意味する帝国共通の黄色い旗竿を掲げながらも、にわかに緊張したが、フランベルツ軍は誰もいなかった。
そのまま無人の野を進んで、やがて、遠くにスラブライエンの街並みが見えてくるに至って、ようやく見張りというか、警邏部隊がすっ飛んできた。
スラブライエン守備軍も、黄色い旗竿の意味は知っている。
「止まれー! 止まられーい!!」
土煙を上げ、馬の蹄の音を響かせて、20人ほどの騎馬兵が突っこんできた。前衛、後衛の兵士4人が前に出てンスリーを護ったが、多勢に無勢だ。徒歩兵の1人が、大きく竿を振る。
「スッ、ストラ殿……他に、兵はおらんでしょうな……!」
角馬を寄せ、ンスリーがストラに囁いたが、
「おりません」
即答されたので、少し安心する。実際、ストラが常時行っている広域三次元探査は、前方から走ってくる兵士の一団しか捕えていない。武装は、偵察隊の軽装備だ。魔力が動いている様子も無い。
やがて、偵察隊が馬を止めた。
「カッセルデント将軍の使者とお見受けする! 正使はどなたか!?」
偵察隊長が騎乗のまま、20メートルほどの距離から大声を張り上げた。
「私は、大隊長のヴェルーグ・ンスリーだ! 詳細は手紙にあるが、ラグンメータ臨時司令官の使者である!」
「臨時司令官だと!?」
「いかにも!」
「カッセルデント将軍は、どうされたのだ!?」
「今は云えん! ピアーダ将軍閣下に直接!」
偵察隊が馬を近づけ、馬上でボソボソと話しあう。
「カッセルデントの身に、何かあったのでは?」
「だろうな……で、あれば……停戦の使者かも……」
「ピアーダ将軍に早馬を」
「頼む」
隊長に云われるや、偵察隊の一人が、一気に馬を取って返す。
「では、こちらに!」
偵察隊が二つに分かれた。前後にンスリー達を挟んで、護送する。
ンスリーとストラを中心にして元の隊列に戻り、偵察隊の間に入った。
そうして平原を半日進んで、まだ明るい夕刻、ストラたちはスラブライエンに帰還した。
「なんだか、ペートリューが将軍と飲み比べしたのがつい昨日のような、何年も前のような、不思議な感じだぜ」
街並みを見やって、フューヴァが妙な感慨に襲われる。
スラブライエンの市民は、マンシューアル人を間近に見やって驚くやら、物珍しいやらで、野次馬も微妙な集まりだった。
その野次馬の中に、市民に扮装したシュベールもいたのだった。
吃驚仰天という他はない。
(こりゃまた一体全体、どういうことなんだ……!?)
馬上のストラは諦め、なんとか後ろを歩いているプランタンタンかフューヴァに声をかけようとしたが、偵察隊の兵士が邪魔で無理だった。
そのまま、いったん引く。
ンスリーたちは市庁舎に入って正式に主武装を解き、ンスリーと兵士4人で短剣のみとなってピアーダに謁見した。ストラや他の徒歩兵は、控室に通された。
ピアーダは早馬で状況を聞いており、やや緊張気味に密書を受け取った。
内容は、停戦どころか、気絶せんばかりに衝撃的だった。




