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第17章「かげ」 3-5 里を襲うもの

 「あいつは、私の呪文で探索することができたが……この里の者は、てっきり動物だと思っていたら、人だった。きのう、縄を木の上から垂らしていたやつだ」


 「はい」


 「追手に、あれほどの隠形術を使うものがもしいたら……私の魔法では分からない。獣と区別がつかない」


 「なるほど……」


 キレットは意外だった。アルーバヴェーレシュほどの魔法戦士の使う魔法で、人と獣が分からないということなどあり得るのだろうか?


 (とはいえ、アルーバヴェーレシュさんは探索術など普段使わないだろうから、そのせいかもしれない……)


 それに、あのゲーデル山脈の遥か奥では、むしろ侵入者より獲物であるゲーデル山羊を探すほうが必要だろう。


 「わかりました、私とネルベェーンのほうでも、それとなく探っておきます」


 もちろん、キレットとネルベェーンが「探る」というのは、この隠し里の周囲に魔蟲まむしを放ち、不審者を探らせるのだ。


 翌日、そのことを村長や里の者に報告した矢先であった。

 里にかなり近い場所で、2人組の死体が見つかった。


 一見するとここらにも普通にいる冬山歩きの猟師のようだが、獲物が少ないとして地元の猟師はほとんど近づかないはずの谷間で死んでいたという。


 どこぞの間者であるのは、云うを待たなかった。


 「マートゥーのマーガル一味に違いない。拙者や、ホーランコル殿たちを追ってたんだ」


 タケマ=トラルが村に運ばれた死体を検分し、そう云った。


 「というより、イェブ=クィープ内にいる草に引き継がれたのだろう。しかし、誰が殺した? 里の者ではないな」


 村長がそう云って、厳しい視線を周囲に放った。

 「これを……」


 村のものが死体の襟首を見せると、毒虫に刺されたというには強力すぎるような、真っ黒になった傷跡が見えた。


 魔毒である。


 つまり、キレットとネルベェーンの放った魔蟲が、さっそく不審者を殺したのだった。


 「素晴らしい魔術だ!!」

 村長が感嘆し、その場にいたキレットとネルベェーンを讃えた。


 「感謝申し上げます、あそこまで近づかれていたのを、まったく見逃しておりました」


 「油断はできません。我らがいれば、まだ狙われましょう。ホーランコルさん、出発を早めたほうが……」


 キレットがホーランコルにそう云ったが、村長が止めた。


 「御待ちくだされ! 皆様方には、是が非でも心安んじて御休み頂きます。でなくば、我らの気がおさまりませぬ。トラル殿、それでよろしいな」


 「勿論ですとも」

 タケマ=トラルもそう云ったが、マーガル一族はやはり只者ではなかった。


 魔蟲に刺され、死ぬまでの数秒で、この間者は荷物に忍ばせていた小さな鳥に密書を託していた。


 というより、意識が無くなって心臓が止まっても、3秒ほど動いた。

 それだけで、小鳥は朝焼けの空に飛び立った。

 翌日、出発の準備を整えていた昼下がりだった。


 10人の刺客と、3体の魔物が突如として里を襲った。魔物は、3つ首に6本足の大熊のようなバケモノだった。真っ黒い毛が渦を巻いており、立ち上がると家の屋根より大きい。6メートルはあるだろう。


 が、隠し里の者たちも、全員が忍者だ。

 すぐさま迎撃態勢を整えた。

 「こりゃ、拙者らが狙いというより、里の壊滅が目的か!」

 タケマ=トラルがそう叫んだ。

 「どうしてそんなことを!?」

 剣を片手に庵を飛び出たホーランコルが訪ねた。


 「そもそもマートゥーは、イェブ=クィープの弱体化を狙っております。それにイェブ=クィープ内にあっても、タケマ氏族が力を持ちすぎるのを嫌う連中がおりましてな! くわえて御公儀内でも、いろいろあり申す……!」


 「なるほど……」

 ホーランコルが苦笑。どこの国でも、内紛は複雑だ。

 「とにかく、いまは倒しますか」


 そう云った矢先、アルーバヴェーレシュの電撃ライトニングが炸裂!! 里を揺るがすような大雷鳴と共に、煙をふきあげた大熊の1体が倒れ伏して動かなくなった。

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