第3章「うらぎり」 5-1 スラブライエンへ戻る
静かに休んでいて、朝になったら亡くなっていた。
外傷もなく、このところ陣内に流行っていた突然死とされた。検死にはジュルジャー・リガンダー両名も立ち合い、証人を務めた。二人は泣き崩れ、兵と共に完全降伏した。
翌日、朝からラグンメータに呼ばれたストラが、館に現れた。執務室でラグンメータと謁見し、その無表情を見たサンタールが思わず一歩、引いた。
「ご苦労だった。四人分だ」
ラグンメータが、12,000トンプ相当のサファイアに近い青い宝石を渡した。
「ありがとうございます」
それを受け取ってストラ、
「で、次は……」
「フランベルツに戻り、ピアーダ将軍にこれを」
ラグンメータがストラへ渡したのは、厳重に封のされた密書だった。三次元探査で、ストラは既に内容を知っている。
「私で、よろしいのですか?」
「ンスリーが正使だ。護衛を頼む」
「私が、もっと高額で再びピアーダ将軍に雇われ直すとは思わないのですか?」
「思うよ。だが、その時はその時だし、傭兵にも信用問題はある。あの時は、ストラは私に人質をとられていた。金額以外にも、寝返る理由があった。フランベルツ傭兵団の生き残りが、証人だ。が、今回はどうかな? 君が今後も傭兵を続けるのであれば……不用意で一方的な契約破棄は、お勧めしない」
「分かりました」
ほんの一瞬、ストラが微笑みを浮かべ、ラグンメータとサンタールはそれを見逃さなかった。
(氷より冷たい笑みって……本当にあるんだな)
二人とも、そう思った。
「では、用意が整い次第、出発します。以後、ンスリー卿の指示に従います。これは、月額報酬内の任務ということでけっこうです」
「……頼んだぞ」
「はい」
ストラが退室し、ドッと緊張が解け、二人は大きく息をついた。
「さてさて……どうなるか」
ラグンメータのつぶやきに、
「うまくいけば、お前はフランベルツ藩王だ」
サンタールが、大真面目な顔でそう云った。
5
「スラブライエンに戻るんでやんすか?」
報告を受け、プランタンタンとフューヴァは正直に安堵の表情を見せた。このまま、マンシューアルの首都にまで行くのかと思っていたのだ。
「御役御免ですか? そういう契約でしたっけ?」
「よくわかんない」
ストラの答えに、フューヴァが肩をすくめる。
その時、ンスリーの部下がテントに現れ、
「午後一で出発します。急ぎ、御支度を!」
と云い残し、素早く戻った。
支度と云っても、捕まってここにいるのだから、持ってゆくとしてもマンシューアル軍からの配給品しかない。あとは……。
「おい、起きろ! スラブライエンに戻るぞ! 自分の酒は自分で運べよ!」
酔いつぶれて爆睡するペートリューの尻を、フューヴァが思い切り叩いた。
「んん……ううう……んが……」
すると酔いつぶれているペートリューが忽然と起き上がり、呑み納めとばかりに大きな甕をそのまま持ち上げて、直接口をつけて残った焼酎を飲み始めた。
「なんてやつだ」
呆れかえって、フューヴァがつぶやいた。
簡単な荷物をまとめ、外で待っていると、兵士が角馬を四頭、連れてきた。しかし、誰も乗れなかった。いや、ストラだけが三次元探査自動学習で乗り方をシミュレーションしており、いきなり跨って乗りこなした。
途方に暮れる三人は、元より従者ということで、数少ない護衛の兵士と共に歩くことになった。
四リットルほど入る小瓶に焼酎を分けてもらい、また背負子に括りつけていたペートリューが引きつったような悲鳴を発したが、焼酎を荷馬で運んでもらえることになった。
「随分と、扱いがいいでやんすねえ」
プランタンタンが不審がったが、それはやはり、ストラの活躍……いや、大活躍によるところが大きい。値段も高いが、値段以上とラグンメータは評価しているのだ。
「仕事が終わっても、ストラの旦那を手放さないかもしれやせんぜ?」
プランタンタン、フューヴァへ囁く。




