第17章「かげ」 2-12 躊躇が無い
しかも、それが複数とは、よほどの熟達した魔術師でないと不可能だった。
玄冬が次元バリアを展開しつつ、忍者刀でそのミサイルを次々に叩き切ったので、当たり前だが次々に爆発した。
その爆炎と爆煙を煙幕にし、素早く移動して死角からリースヴィルに襲いかかる。
が、煙と空気の流れと空間のゆがみを観測し、リースヴィルが対応した。玄冬ほどの存在だと、動くだけで空間にゆがみが生じるのだ。また玄冬もその歪みを消しながら完全な隠密行動もできるのだが、リースヴィルにはする必要が無いと判断している。
煙幕を切り裂いて、両手持ちの忍者刀がリースヴィルを襲った。
魔力の楯でその攻撃を防いだが、玄冬の刀は魔力効果を空間ごと中和。熱したナイフでバターでも切るがごとく、刃がリースヴィルに迫る。
リースヴィルも負けじと魔力楯を次々に重ね合わせ、対抗した。どうせ時間稼ぎだ。
そこで玄冬が覆面と面頬の奥で真っ赤に光る目を揺らめかせ、なんとしゃべった。
「抵抗は無駄だ。素直に精霊気どもを渡せ。さすれば、この場では命を奪わぬ」
嗄れた、枯れ木をこすったような声だった。ほとんど聞こえないようでいて、魔力通話のように脳裏に響いた。リースヴィルがゾッとして身を震わせつつ、
「狙いは我々ではなく、エルフだっていうのか!?」
「答える義務はない」
「おまえは、影の魔王なのか!? どうして、魔王ほどの者がバーレ王国に使われているんだ!? エルフを狙っているのは、バーレの連中なんだろう!?」
「答える義務はない」
リースヴィルは魔力の楯を矢継ぎ早に重ね、むしろ刃を両側より挟みこみ、真剣白刃取りのようにして押さえつけた。
「小賢し……」
玄冬の灼色の両目が、細く歪んだ。
すかさず、スライディングめいて地面を滑り、魔力楯の下からリースヴィルに蹴りを放った。
長い脚が伸び、まともに食らったリースヴィルの細い右の脛が一撃で折れてひしゃげた。
「うわっ……!」
痛みは無いがバランスを崩し、リースヴィルがよろめいた。
瞬間、大柄な体を軟体動物めいて動かし、刀を離した玄冬が魔力楯の下をすり抜けてリースヴィルに肉薄すると、両手に逆手持ちの苦無を出し、無防備なリースヴィルに襲いかかった。
その苦無を、燃え盛る炎の刀で受けてフローゼ、
「下がって、リースヴィル」
魔力で足を修復しつつ、リースヴィルが急いで間をとった。
「貴様、人ではないな」
また、玄冬が口をきいたが、フローゼは取り合わなかった。
すぐに自身も離れて間合いを作り、一足飛びに追い討ってきた玄冬めがけて、特殊に調節した魔力阻害効果を放った。
「……!?」
自身の周囲を力場のように効果が囲い、玄冬が動きを止めた。
「しばらく、そこでそうしていろ」
フローゼがほくそ笑む。思っていたより、上手くいった。1体を押さえることができた。少なくとも、こいつは入れ替わることは無い。
だが玄冬、
「こんなもので身共を封じたつもりとは……人形の浅知恵、救い難し」
「なんだと!?」
さすがにカチンときて、フローゼが鼻っ柱をゆがめた。
「私が人形なら、貴様はなんなのだ!?」
「答える義務はない」
云うが、玄冬が両手の苦無を自身の首に当て、一撃で自ら首を落とした。そのまま倒れこみ、魔力阻害効果の壁にもたれかかって、ズバズバと粉微塵となる。
ほぼ同時に、真後ろから新たな玄冬がフローゼの背中に猛烈な蹴りを入れた。
仰け反ってぶっ飛び、地面に転がってフローゼ、
(……なんてヤツだ!!)
畏れ入った。只者ではない。流石魔王というか……行動に躊躇が無い。
倒れているフローゼに玄冬が刀を突き立て、正確に水月(へそと鳩尾の中ほど)の辺りにある魔力阻害装置を狙った。
「コイツ!!」
起き上がりざまにその突きを避け、すかさず追い打ちをかけた玄冬の背中に、リースヴィルの火の矢が炸裂! 玄冬が炎に包まれ、衝撃でぶっ飛んで転がった。
転がりながら砂を巻きあげて火を消し、寝転がった姿勢から爆裂苦無を2人に打ちつける。
リースヴィルが思考行使で魔法の矢を放ち、正確に空中で迎撃。
火球もかくやという爆破がおき、ビリビリと空気を揺るがした。
玄冬が、面頬のあいだより地獄の瘴気を吐きつけ、真っ赤な両目を光らせて起きあがる。




