第17章「かげ」 2-11 誘拐の試み
この隠し里ごとエルフたちを拉致しようと王都に向けて空間移動させていた玄冬、それをストラに阻まれると実力行使に出た。
だが、他の玄冬はまだ空間移動を試みている。
ストラが空間制御法でそれを阻止しているが、プログラム稼働をそちらに取られ、戦闘力は大幅にダウンしていた。
「オネランノタル、私は里の防御に力をとられています! 戦闘補助を!」
「もちろんだ!!」
すぐさまオネランノタルが魔力を直接行使。真っ赤に焼けた灼熱の刃の二刀流で巨大なハサミのようなものを出し、玄冬に襲いかかる。
その刃を、玄冬が素手でおさえた。それがものすごい力で、なんとオネランノタルを押し返した。
その隙にリースヴィルが小屋に突入し、3人を魔力のバリアで守りつつ避難した。
前回と違い、玄冬は1体から増えなかった。
ストラの狭範囲多次元空間観測によると、8体のうち5体が空間移動に力を使い、残る3体が合体した状態だった。
つまり、いまオネランノタルが相手をしている1体は、3体分の力(正確には3乗)があるということだ。
「そんな藝当もできるのかい!!」
ストラから説明を受けたオネランノタル、驚きつつ真っ赤なハサミの刃を両手で押さえる玄冬めがけ、至近からエネルギー光線を放つ。
それへ、ストラもプラズマ粒子砲を放った。
二方向からの攻撃を、玄冬が空間制御により方向を変えて防いだ。
指向性が歪み、拡散したビームがそこらにぶちまかれ、大爆発した。
木々や家々が吹き飛び、たちまち火災となった。
「急げ、とにかく逃げろ!」
フローゼが叫び、どこでもいいからこの世界の端にエルフたちを誘導する。
「フローゼさん!」
プランタンタン達を連れたリースヴィルも合流し、
「プランタンタンさん達を御願いします!」
「あんたも来るんだよ!」
「僕は、聖下の加勢に!」
「バカ、あたしたちじゃ足手まといだ!」
「しかし……」
そこへ、空間移動作業中の5体のうちの1体が作業を中断してエルフたちを襲った。
「……ナメんじゃないぞ!!」
フローゼが後ろ手にリースヴィルをどかし、体内に内蔵式の魔力阻害装置を照射! 既に、胴体が開かずとも効果だけを照射できるまでに性能が上がっている。
それをまともにくらった玄冬が、一瞬で粉微塵となった。が、すぐに別の玄冬が現れてエルフを襲う。
(まただ!! キリがない!!)
フローゼが奥歯を噛む。
「フローゼさん、こいつ、倒してしまわないで、とらえるか押さえていたほうが良いのでは!?」
リースヴィルの言葉に、フローゼが目を丸くした。
「……リースヴィル、それだ! 手を貸して!」
「分かりました! リン=ドン、皆さんを遠くに!」
「か……畏まりまして御座ります!」
少年姿のリン=ドン、とにかくプランタンタン達を含む雲霧エルフたちを誘導した。
だが、離れすぎてもいけない。ここに玄冬が現れては、リン=ドンでは対処不能だ。リン=ドンやプランタンタンたちは殺され、エルフは誘拐されるだろう。
少し離れた低地に、泉があった。リン=ドンはそこに50人以上のエルフとプランタンタンたちを率い、泉の畔に到着するや全長30メートルはある蛟竜の姿となって、泉の水気を使って泉ごと分厚い結界を作り上げた。
「護るだけなら、やってみせますぞ!!」
あとは、ストラたちを信じる他は無い。
「リースヴィル、ぶっつけだけど……阻害効果を応用して檻を作る!! 時間を稼いで!」
「了解しました!」
不幸中の幸いか、リースヴィルの力では、玄冬を倒すのは難しい。だが、1体だけなら微妙に対等の相手として時間を稼ぐことができる。
リースヴィルが火球と魔法の矢を合わせた火の矢を複数だし、玄冬に叩きつけた。火球の爆発力と、魔法の矢の貫通力と速度を併せ持っている。云うのは簡単だが、まったく異なる効果の2種の魔法を融合させるのは職人業だ。普通は、合わせた途端に誘爆する。




