第17章「かげ」 2-8 移動の法
「その移動先に、ヴィヒヴァルンが良いのではないか……というわけだが、どうやって移動させようかというのが、最初の話だったのだ。が……急に、影の魔王の襲撃の話が出てきてな。それで、情報共有のために急遽ペッテルにも通話に入ってもらったのだ」
ルートヴァンの説明にペッテル、
「なるほど……。それで、エルフたちをどのようにしてヴィヒヴァルンに? 次元回廊ですか?」
「やはり、そうなるか。しかし、ペッテルは回廊の構築をできるか?」
「私はできません」
「僕も難しい。オネランノタル殿も無理だ」
「連中は、できなくはないがかなり時間がかかり、現実的ではないそうだ。いっそ、転送魔法で運ぼうかとも思ったが……」
「エルフたちは、何人いるのですか?」
「50人くらいだ」
「その数を、どうやって一度に転送するのですか?」
「ペッテル! それが分からないから、代王に相談しているんだよ!」
「そうですか……」
「まともに転送すれば、10往復ではきかないでしょうな。バーレの連中や、それこそ影の魔王に見つかる可能性も」
「次元回廊もダメ、転送もダメでは、私にはほかに良い法が思いつかない。とにかく、急ぐんだ。影の魔王の問題さえなければ、ゆっくりやるのだがね」
「……」
ルートヴァンも黙ってしまい、眠い頭を振り絞ったが、俄かに良いアイデアは浮かばない。
そこでペッテルが、
「陛下、マーラル様に御相談されてはいかがでしょう?」
「え?」
「マーラル様は亜空間制御の達人。どういうわけか、タケマ=ミヅカ様の作った回廊には入れないようですが、自ら他の回廊を構築するのは、できるのでは?」
「そうか……オッサンにな。先日、会ったばかりだが……まだ、あそこにいるとよいのだが……それに、力がどれだけ戻っているか……」
「乗り気じゃなさそうだね、代王」
「いちいち帝都に行かなくてはなりませんし、行っても会えるかどうか。それに、亜空間の魔導都市にいたマーラルがいなくなって、すぐに力が戻ると思っておりましたが、そういうものでもないのだそうで」
「なんでもいい、代王! ここは、異次元魔王のメンツもあるよ! 引き受けてしまったのだからね!」
「分かっております……明日にでも、時間を作って帝都に飛びましょう」
「待たせたね、ヴィヒヴァルンのルートヴァン代王と、ノロマンドルのペッテル公女といろいろ方法を模索していたが……」
通話を切り、エルフたちの前でオネランノタルがそう云った。
「ヴィヒヴァルンで受け入れるのは大丈夫だ。だが、移動の法をちょっと模索する時間が欲しいとのことだ。単なる転送では、10往復以上もかかるらしい」
「……」
エルフたちが眼を合わせ、
「それでは、目立ちましょうな」
「そうだ。だから、代王がなるべく早く、良い法を探ってくれるという」
「何卒、よろしく御願い申し上げます」
エルフたちがいっせいに床に額をこすりつけ、ストラを拝んだ。
「それまで、どうか里に御滞在くだされ」
云われて、一行は隠し里のバンガローめいた空き家に案内された。
亜空間内は昼とも夜ともつかず、常に穏やかな光に包まれていた。
空き家は1軒しか無かったが、プランタンタンら3人が休めればそれでよいので、問題は無かった。
「ちょっと、この里を探索してきます」
リースヴィルがさっそくそう云ってどこかへ消えてしまい、フローゼも同様に消えた。オネランノタルはいつルートヴァンから魔力通話が来てもよいように、屋根の上で待機した。
ストラは部屋の隅で壁に向かって腕を組んで立ちつくし、リン=ドンは物珍しそうに小屋の周囲を歩きまわっていた。プランタンタン達はあの妙な食べ物のせいで異様に満腹となり、疲れもあって敷物に横になると早々に寝息を立て始めた。
どれほど、眠っていたものか……。
暑くも寒くもないこの亜空間内がよほど心地よかったのか、12時間近くも寝ていたフューヴァがようやく目を覚まし、ふだんこれほど眠らないので寝すぎて頭痛がしたほどだった。
しかも、一瞬、ここがどこだか分からなかった。




