第17章「かげ」 2-7 そっち
「な? そうなるだろう?」
姿は見えないが、オネランノタルが不謹慎にも楽しそうに口元をゆがめているのが声で分かり、ルートヴァンはまた思わず苦笑した。
「途中から戦闘に合流した私やフローゼも、わけが分からなかったよ。私らでも倒せるんだが、とにかく次々に現れる。ストラ氏に云わせると、それが『タジゲンドウジソンザイタイ』なのだそうだ。それも、かなりの使い手らしいが……」
ルートヴァン、そこで先日マーラルの無何有の里で聴いた話を思い出した。
(なるほど……倒したらすぐ入れ替わるというのは、そういうことか……てっきり、すぐとはいえ、復活までそれなりの時間がかかるのだろうと考えていたが……本当にその場で次から次に瞬時に入れ替わるとは……!!)
1人で納得し、
「つまり……オネランノタル殿やフローゼでも倒せるということは、これまでの魔王のような別格の強さは無く……その代わり、いくら倒しても、すぐさま、しかも無尽蔵に復活すると?」
「復活と云って良いのかどうかは知らないがね……とにかく、その通りだ。流石、代王だよ。理解が早いね。ただ、ストラ氏が云うには、同時に8体が影の魔王の限界じゃないか……とのことだ。8体以上は最後まで現れなかった」
「ほう……」
「それで、最後はどうなったのですか?」
これはペッテルだ。
「焦るんじゃないよ、ペッテル。とはいえ、最後は呆気なかった。ややしばらくの戦闘の最中に、影の魔王のやつ、いきなり8体同時に消えてしまった」
「逃げた……と?」
「そう考えざるを得ないだろうね。理由は不明だ。次にいつ襲ってくるかも全く分からない」
「……」
ルートヴァンもペッテルも、俄かに考えがまとまらなかった。
「た……倒せるのですかな? そのようなヤツ……現実に。聖下は何と?」
「それなんだがね、代王……ストラ氏が云うには、ヤツを倒すというより……この世界に出現できなくするしかないのでは……とのことだ。それも、ストラ氏をもってしても、やってみないと分からないそうだよ」
「ううむ……」
ルートヴァンが顔しかめ、唸ったまま黙りこんだ。
「影の魔王対策は、我々にできることは少ない。あんなヤツをバーレの人間ごときがどうやって使っているものか……そっちを探ったほうが良いかもしれないね」
「術者を倒す……と?」
「そういうことになるね」
オネランノタルの言葉に、ペッテルが、
「私の方で、探ってみましょうか?」
「できるのかい?」
「何らかの魔導装置を使うほかはないですが……」
「待て、ペッテルよ。これ以上、余計な仕事は頼めん。ペッテルは、タン=ファン=リーについて、何でもいいから連中が処分し損ねた資料を探し出してくれ。あの量だ、ペッテルのような人材なくして、とても探しきれるものではない。かならずや、何か残っているはずだ」
「畏まりました。では、そのように」
「で、話は戻るのだがね、代王」
「ああ……バーレのエルフたちの話でしたな」
「バーレに、エルフがいるのですか?」
ペッテルが、興味深げにくいついた。ペッテルにしても、初耳だった。ただ、どうしてバーレにエルフがいないのか……というより、西方にエルフがいないのかは、知らなかったが。
「数少ない生き残りだそうだよ」
オネランノタルがそう云い、
「生き残り?」
「西方ではな……ペッテルよ、エルフの肉や内臓や骨を効果の高い生薬として取り扱って高額で取引されており、バーレではこの数百年でエルフを狩りつくしたそうだぞ」
「えええええッ!?!?」
そんなペッテルの驚愕する声を初めて聴いたルートヴァン、これも無理もないと内心、苦笑する。
「本当に、そんな効能があるんですか!?」
「そっちかい!」
オネランノタルがそう云って笑い、
「効果のほどは知らないけど、とにかく高価なんだそうだ。プランタンタンも狙われた。おそらく、アルーバヴェーレシュのヤツも苦労しているんじゃないか?」
「なるほど……もはや、効能が云々よりも、金銭の問題なのですね」
「そうさ……。ま、なんにせよ、エルフたちにとっちゃ、たまったものではない。少ないながらも、せっかく生き残っているんだ。ストラ氏に帰依し、安住の地に移動させてほしいというわけなんだよ」




