第17章「かげ」 2-6 鼎談
「そのビッヒ……とやらは、ここからどれほどでしょうや?」
それにはリースヴィルが、
「街道を徒歩で……荒野を超えれば、2か月ほどかと」
「遠すぎます。我らの術では、いったん出口に向かい、両方から回廊を伸ばすものにて……時間がかかりましょう」
「それに、その方法だと私たちも二手に分かれる必要が。現実的じゃないんじゃない?」
フローゼの言葉に、オネランノタルもうなずいた。
「とはいえ、ヴィヒヴァルンで保護するのは魅力的だ。私から代王に何か良い考えはないか、早急に聴こう」
「いま、連絡をつけても、外は夜中なんじゃ?」
フローゼがそう心配したが、
「なに、いつものことさ」
むしろ不敵に笑って、オネランノタルが魔力通話。予め魔力通話用の波長……チャンネルを設定してあるので、亜空間からでも即座につながった。
「事は重要。念のため、リースヴィルもつなげ」
「畏まりました」
オネランノタルとルートヴァンの魔力通話に、リースヴィルも割って入る。
「代王! 代王! 寝ているのかい?」
「……あ、大丈夫です! 如何致しましたか?」
また自室の机で山のような資料と書類を前に転寝をしていたルートヴァン、飛び起きて資料をガサガサと床に落としてしまった。
「手短に相談がある。リースヴィルも通話に加わっている」
「ほう……」
それは面白そうだ、と思いつつ、眼をこすり、ルートヴァン、
「どうぞ、どのような御相談で?」
「いま、私の魔像兵をフローゼと共に率い、王都へ向けて進軍している。その途中で、バーレで生き残っていた未知のエルフから接触があった。端的に云うと、異次元魔王に帰依するので、どこかへ移住させてほしいそうだ。バーレでは、エルフは獲物として狩りつくされており、希少な生き残りだ」
「つまるところ、ヴィヒヴァルンに避難を?」
「その通りだ」
「どうやって避難させまする?」
「相談とはそれだよ、代王。連中、次元回廊技術を持っているが、云っちゃあ悪いが相当にややこしい法だ。ここからヴィヒヴァルンまでつないでいる間があったら、転送魔法で運んだほうが早いくらいだ。が、先日、影の魔王に襲撃されてね……」
「な……!?」
ルートヴァン、眠気もぶっ飛んで席を立った。また書類の山が崩れて床に散らばった。
「聴いておりませんぞ! オネランノタル殿!!」
「そりゃそうだ、まだ説明してないからね」
「では今すぐ御説明を!」
「もちろんのこと、報告しようとは思ってたんだけど、状況が我々の理解をはるかに超えていてね……まとめているうちに、そのエルフから接触があったのさ」
「御待ちを……いま、ペッテルともつなぎまする」
ルートヴァン、動転した気を落ちつけつつ、
「ペッテル、聴こえているか。ペッテルよ!」
「ハイ、陛下、何でしょう」
すぐにペッテルから返事が来た。
「重大案件だ、オネランノタル殿ともつないでもらいたい」
「分かりました」
ペッテルがあらかじめ知らされている魔力通話用の波長を合わせ、すぐにオネランノタル、ルートヴァンとの鼎談に望む。ちなみに、ペッテルのところにいるリースヴィル(2号)もペッテルの指示で通話をつなぎ、4号と同じく鼎談を傍聴し情報を共有する。
「ではオネランノタル殿、影の魔王の襲撃の状況を」
「影の魔王が襲撃!? 聖下をですか!?」
思わずペッテルが高い声を発してしまい、
「し……失礼いたしました。どうぞ、御願いします」
無理もない反応だと、ルートヴァンが苦笑しつつ少し安心した。いきなりそう云われては、誰でもそうなるだろう。
「3日前……いや、4日前のことだ。王府へ向かっている我らに、足止めで現地軍が夜襲を仕掛けてきた。私とフローゼで魔像兵を分けて対応し、余裕で処理できると思っていたが……それは囮で、いきなり後方に控えていたストラ氏やリースヴィル、プランタンタン達を、謎の敵が襲った。それも、複数でね。8体……だったかな? まったく同じ姿、強さのやつが8体さ。ストラ氏が対処したので、ほとんど一瞬で謎の敵はことごとく打ち倒されたが……これがね、倒しても倒しても即座に現れるんだ」
「即座に現れる? ど、どういう意味で……?」




