第17章「かげ」 1-17 アンデッド兵器
フューヴァは恐怖よりも驚きで、硬直した。やっとのことで、
(な……なんで、アタシを狙うんだ……!?)
そう思ったとき、赤い両目がさらに揺らめいて、フューヴァを甲高い共鳴音が包んだ。
たまらずフューヴァが耳をおさえ、周囲の空間が波紋のように揺れた。
中和攻撃だった。
フューヴァを護る次元バリアを、強力に中和していた。
そこへ、ストラが本気の超高速行動で突っこんできた。
衝撃波の中、光子剣が闇を裂き、赤眼を切り裂いた。
赤眼が避けたが、豪快に胴体を袈裟に切り裂かれた。
そのまま赤眼が闇に溶け、同じく次元バリアに護られているプランタンタンを襲っていた赤眼にストラが至近から戦艦の主砲クラスのプラズマ砲を放った。
さらに、ペートリューに肩を貸して走っていたリン=ドンと、周囲を警戒するリースヴィルをそれぞれ別個に襲っていた赤眼にも、同時に対艦ミサイル級の誘導プラズマ球電を放っていた。同時に4方向攻撃だ。
平野全体を昼間のように明るくして、大爆発が起こった。
「!?」
そこで初めてオネランオタルとフローゼは、本陣……ストラが直接襲撃されたと分かった。
(影の魔王とやらか……!?)
あまりの爆発に、戦っていた州軍兵も何事が起きたかと固まり、また少し遅れて周囲を舐めた衝撃波に転がったが、魔像兵は何ら影響が無かったので、動きの止まった州軍兵を容赦なく攻撃し、一気に押しこんだ。
「おまえらは、このゴミをきれいさっぱり掃除していろ!!」
魔像兵にそう命令し、オネランノタルがストラの下にすっ飛んだ。
州軍どころではない。
(まさか、こいつらが囮だったとは……!!)
先日のリースヴィル(3号)の時といい、二度も出し抜かれてオネランノタルが激怒した。
何度やられても執拗に出現してプランタンタン達を複数人で同時に襲い、かつ特殊鋼の刀を振るってストラと戦っているのは、紛れも無く影の魔王ことゲントー、すなわち泊瀬川玄冬であった。
玄冬は、あえて分類するなら「アンデッド兵器」である。
さらに分類すれば、スーパーハイゾンビか、超高度死者王とでもなるのだろうが、本人の言では「地獄忍者」「死乃火」であるという。おそらくそれは、兵器としてのカタログ名なのだろうが。
玄冬、この魔法世界にはアンデッドが存在しないので、当然この世界の存在ではない。
ストラのいた世界でも、もちろんアンデッドは存在しない。
ロンボーンのいた世界にもいない。
だが、タケマ=ミヅカこと武満観水樹博士のいた世界では、アンデッドが存在した。しかも、その高度な魔法科学文明はアンデッドを自律兵器として実用化していた。
玄冬はまた異なる世界の存在だったが、タケマ=ミヅカのいた世界とかなり近い世界と推定できた。
そのため、タケマ=ミヅカは玄冬をある程度コントロールできた。
ただし、その方法はいまもって不明である。
多次元同時存在体とはいえ、その基本体は存在する。基本体自体が随時入れ替わることができるので、どれが基本体なのかというのはいろいろと定義できるのだが、とにかく、基本となる存在がある。
いかなる理由や状況によるものか、今となってはまったく分からないが、玄冬の基本体がこの世界にいたところ、魔族ブーランジュウと知り合った。玄冬にどのような自由意思が存在するのかも不明ながら、ブーランジュウと玄冬は敵対しなかった。
タケマ=ミヅカに玄冬を紹介したのは、ブーランジュウだった。
タケマ=ミヅカは瞬時に玄冬の正体を見抜き……兵器として支配した。そうして、主に強行偵察に使っていた。
いま、次々とストラに破壊されているのを見ても分かる通り、単体の玄冬はそれほど強くない。
戦闘偵察機であり、主力戦闘機ではない。純粋な強さだけで云えば、準魔王級だった。オネランノタルやルートヴァンと同等か、少し上ほどと云える。まともに戦えば、レミンハウエルにすら負けるだろう。
だが、キリが無い。
理論上、無限に現れることができる。
まさに、合わせ鏡の術というわけだ
事実上は、事象の地平線が限界突破して崩壊し、いつかは同時存在体がこの世界に現れることができなくなるのだろうが……それまでに何万体、何億体、何兆体現れるのかは、想像もつかない。
「……舐めやがってえええええ!!!!」
オネランノタルが四ツ目をむいて、その戦闘に割って入った。




