第17章「かげ」 1-15 初手で痛撃
(いくらクー=ガン=ランのやつが長袖でも、早過ぎる……!)
「長袖」とは文官を意味する。書類書きに関しては長袖に分があるが、軍を動かすのは武官に分がある。短期間で州兵力を全て集めることができたのは、太守マー=キン=ラーが将軍を兼ねる武官だからだ。
「将軍、如何致しまする!!」
配下の各軍団長の代表が、朝議の間で指示を仰いだ。
「王命では、少しでも時間を稼げとある!! ハウオイがこうも早う落ちたのでは、時間稼ぎも何もない! 我らがその分を稼がなくてはならんぞ!」
「では、籠城ですか!?」
「籠城もよいが、12000を食わせる備蓄はあるのか?」
「なにせ急な参集だったため、参集した兵の持参分を含めても、およそ20日ほどしか……」
「20日でも持てばよいほうか……しかし、食うものも尽きてから決戦では力も出まい」
「では、先に仕掛けて、程よいところで撤退し、そこで籠城いたしまするか」
「そうだな……よし、そうしよう!」
作戦が決まり、まず全軍で迎え撃って、痛撃を与えてから籠城することとなった。
誤算だったのは、魔像兵の戦闘力だった。
そもそも20000対12000で兵力で負けている。まともに向かっては不利なので、一打を与えてサッと撤退する手はずなのだ。
だが、魔像兵が1体で兵士20人分というのを考慮すれば、単純計算で40万の兵力でやっと互角であった。
一打も何もない。
「全軍、出陣!」
太鼓が鳴り、寒風の吹きすさぶなか、冬の荒野を12000の軍団が街道を南進した。
それを30キロも先よりストラが三次元探査でとらえた。
オネランノタルとリースヴィルも偵察の小竜を放ち、確認する。
「兵力は、1万と少しってところですかね……どこで戦りあうつもりなんでしょう?」
リースヴィルが、オネランノタルとフローゼに尋ねた。
「ホアンロウっていう街が、たしか州都だったはず。そこから出て……この先に、ちょっとした平原があるっちゃあるかな……」
フローゼがそう云い、オネランノタルが、
「どういう腹積もりなんだ? そんなところで戦って、数で勝る我々に勝つつもりなのか? そんなことする?」
「私たちの情報を、正確に把握してないんじゃないの?」
フローゼの言葉に、リースヴィル、
「なんにせよ、打って出てきたのは確かです。なにか作戦があったとしても、どうせ城に逃げ帰って籠城が関の山でしょう。籠城できる余裕もないほど、初手で痛撃するのがよろしいかと……」
満足げに、オネランノタルが四ツ目を細めた。
「キヒッヒヒヒ……いいだろう。ストラ氏、どうだい」
「いいよ」
半眼でスタスタ歩いているストラが、遠くを見たままそう答えた。
「ではそうしよう。機動力、戦闘力でもこちらが上だ。私が正面から相手をするから、フローゼ、回りこんで退路を断ってくれないか。退却して籠城などと云うバカで面倒なことをさせないように、ね」
「了解」
フローゼがオネランノタルに片眼をつむって見せ、作戦概要が決まった。
翌日、街道は緩やかな台地を下り、おそらくここが戦場となるであろう、ちょっとした平野に出た。冬だが、雪もあまり積もっていない。地面は固く、馬も走れるだろう。敵も、ここを主戦場としようとしているのは明白だった。
偵察の小竜やストラの探索魔法により、ツイヂー州軍がいまどこでどのような陣形で進軍しているのかも、まる分かりだった。
「会敵は、今日の夕刻か明日の早朝だろう」
「回りこむなら、最初から伏兵として隠れていようか?」
フローゼが地形を見ながら、オネランノタルにそう云った。
「隠れるとことがあるかい?」
観たところ、周囲には森も丘もない。
「少し離れるけど、あの小山の向こうは? 山の上から、戦況を観るから」
我々の距離にして7キロほど離れたところに、小さな盛り上がりがあった。
「魔像の機動力なら、余裕だろう。頼むよ、フローゼ」
「まかせてちょうだい」
さっそく、再びリースヴィルの出した地走竜にまたがり、兵力の半数を率いてフローゼが出陣した。
平原に1万の魔像兵を500×20列で待機させ、その前で小柄なオネランノタルが微動だにせずに立ち尽くしてツイヂー州軍の到着を待った。




