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第17章「かげ」 1-14 異次元魔王の傍観者

 そのころ、フローゼは竜を下り、数体の魔像兵を引き散れて政庁に突入していた。群がる守備兵をこともなく斬り倒し、太守を探す。


 太守クー=ガン=ランは城の非常奪取口から王都に向けて逃げようとしていたが、オネランノタルの火球支援がたまたまその出入り口を爆破したため、無事な門を目指して政庁を出ようとしていた。


 そこで、ばったりとフローゼと遭遇した。


 「……おのれ、侵略者め!! 非道を極める魔王の手下めが!! 国王陛下が、必ずや貴様らを討ち滅ぼしてくれようぞ!!」


 ひげ面を怒りで真っ赤にし、クー=ガン=ランが必死の形相で長袖を振り乱してフローゼを怒鳴りつけた。


 「あっそう」


 フローゼが、踏みこみながら炎を噴き上げる無銘の神刀を一閃! 太守が左袈裟に切り裂かれ、大量の血を吹き出しつつも炎にくるまれて倒れ伏した。


 「火をかけろ!」

 フローゼは魔像兵にそう命じて、踵を返した。


 4体の魔像兵、モノアイを赤く光らせ、そこらじゅうに熱光線を発射。小爆発と共にたちまち可燃物が燃えあがった。


 フローゼが政庁から出ると、ハウオイの街全体が業火に包まれており、累々と住人の死体が転がっていた。四方にある各門の前に魔像兵が陣取って、逃げようとする住民をことごとく殺したので、焼死したものも含め、約1万の住民は本当に全員が死んだ。全滅だ。


 政庁の前に竜が待っていたが、リースヴィルが魔法で出した竜だったので業火をものともせずにフローゼを迎えた。フローゼも、人ではないので数百度の高温に真っ赤に照らされて、なんの影響もない。そもそも、フローゼそのものに永久効果の耐火魔法もかかっている。


 颯爽と竜にまたがり、

 「帰還する!」

 竜が走り、魔像兵がホバー走行で炎を引き裂きながらその後に続いた。



 ハウオイ城の燃える明かりが、夜の地平線に赤く見えた。


 その明かりを遠くに見つめながら、プランタンタン達3人が、無言で糧食をかじっていた。


 いや、ペートリューは変わらず水筒の酒を傾けていた。


 3人は一般人であるとはいえ、命が空気のごとく軽い当該世界の住人である。我々とは死生観が違う。


 そうであっても、無常を痛感し、声も無かった。

 魔王が動くと、街ひとつがこうも簡単に住民ごと消え去る。

 ストラがその気になれば、国ひとつがそうなる。


 おそらく、敵の魔王との戦いで、バーレは遠からずウルゲリアやガフ=シュ=インのようになるのだろう。


 それが分かっていても、どうすることもできない。

 そして、ストラはその滅亡のデスマーチの果てに、この世界をどうするのか。

 3人には分かろうはずもない。

 そもそも、ストラにどのような目的があるのかすら分からない。


 (ルーテルさん……いや、ヴィヒヴァルンの王様とあの先生は、そんなストラさんを道具・・として利用していたはずだ……)


 そのヴィヒヴァルン王も、暗殺されたという。

 (どうなっちまうんだ……? この世界はよ)


 ギュムンデにいたころは、その日のメシのことを考えるのが精一杯だったフューヴァが、世界の行く末を考えている。


 そんな自分が滑稽で、フューヴァは急に笑い出した。

 そんなフューヴァに、プランタンタンとペートリューも笑い出した。

 3人でひとしきり笑ったのち、

 「……こういう光景を見るたんびに、思うんだけどよ……」

 目元をぬぐい、フューヴァがボソリと云った。


 「アタシたちは、ただ見るだけなんだ。何もできねえ。ただ、ストラさんがこの世界で何をするのか……最初から最後まで見ることができるのは、きっとアタシたちだけなんだ」


 「で、やんすねえ」

 プランタンタンも、ルートヴァンみたいな妙に不敵な笑みでそう云った。

 ペートリューは何か云う代わりに、水筒を一気に飲み干した。


 そんな3人を……異次元魔王の傍観者を、食べなくても眠らなくてもよい面々……オネランオタル、フローゼ、リースヴィルが見つめている。



 ラオイェン州の州都と主力を撃破したストラたちは街道を何の障害も無く北上し、3日後にツイヂー州に入った。


 ツイヂーでは、太守マー=キン=ラーが12000の兵を集めるのに成功していた。州の兵力のほぼ全軍であった。


 マー=キン=ラーはクー=ガン=ランと違い武官であり、防南都将軍を兼任していた。


 「ハウオイ城はもう落ちたのか!?」

 魔王軍越境の知らせを受け、マー=キン=ラーが仰天して叫んだ。

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