第17章「かげ」 1-8 おびき寄せる
「……」
4人とも無言だったが、一心に爆心地であるローウェイ市の方角を見つめていた。
「ただいま」
ふいにストラが合流し、真っ先にリン=ドンが額を地面に擦りつけて平伏した。そうしてがたがたと震えながら、
「こ……これ、これ、これまでの御無礼の数々……平に御容赦願いたく……ま、魔王聖下におかれましては……どど、どうか、今後もその足下に控えることを御許しくだされ……!!」
「いいよ」
プランタンタン達が何か云う前に、もうストラがぶっきらぼうにそう答えていた。
少年姿のリン=ドン、そう云われてもまだ地面に額をこすりつけていたが、
「いいってよ」
フューヴァが優しくその背中に手をやり、リン=ドンを立たせた。
リン=ドンはしかし、顔面蒼白で恐れおののき、まともにストラの顔を見られなかった。
「しっかりしろよ! 500年も生きてる立派な魔族なんだろ!? ストラさんの力は、あんなもんじゃねえぜ。あんなんでビビってたら、従者なんか務まらねえぞ」
「え……!?」
リン=ドンが眼を見開いて、フューヴァの顔を凝視した。
「そうでやんす! あっしらなんて……いや、相変わらずとんでもねえことなんでやんすけど……あの10倍くらいの力を見てきてるんで、あんな程度は……って云っても、久しぶりだったんで魂消やしたし、ものすげえ凄さなんでやんすけど……とにかく! 旦那の御力は、あんなもんじゃねえんで、気を確かに持ったほうがいいでやんす」
プランタンタンがそう云い、口をへの字にひん曲げて目を丸くするリン=ドンを見やった。
「その通りだ、リン=ドン。おまえ、どこまでストラ氏について行く気だ? もっとも、どこまででもいいぞ。我らは、何があろうと最後まで付き従う覚悟だが……おまえは別に、途中で脱落してもいい。付き従ってもいい」
これもいつの間にやら現れたオネランノタルが、四ツ目を細めてそう云いった。
「は……」
リン=ドンが、息を飲んで固まってしまった。
「好きに決めろ」
オネランノタルがそう云って、ストラに向き直った。
「ストラ氏、私の不手際だ。リースヴィルを失った。申し訳ない」
「リースヴィルが!?」
フューヴァが声をあげた。
「し……死んだのかよ!?」
オネランノタルがフューヴァを見やり、
「その通りだよ、フューヴァ。あのリースヴィルは死んだ。私を庇ってね」
「……でも、またすぐ現れるんだろ? なんたってルーテルさんの分身なんだから」
「それもその通りだが、別人のリースヴィルだよ」
「そ……そうか……」
フューヴァが黙りこんだ。
「オネランノタル」
「なんだい、ストラ氏」
「ルーテルさんから連絡はありましたか?」
「先日、あるにはあったけど、帝都の例の引退した魔王マーラルに何やら聞きに行くと云ったきりだよ」
「そうですか。次に連絡があったとき、リースヴィルの代わりの派遣を頼んでおいてください」
「もちろんだ。それに、そろそろフローゼも合流するらしい」
「フローゼの旦那がでやんすか?」
「かなり頑丈かつ強力に造り直されたようだ」
一行にとっても、ゾールンの分身のさらに分身とやらとの戦いでフローゼが破壊されてから、しばらくぶりの再会だ。
「そりゃ、楽しみだな」
フューヴァも、顔をほころばせた。
「で……これからどうするんだっけ?」
「もちろん王都へ向かう。まだ無何有の在庫が王都にあるかもしれないし、残党がいるかもしれない。それに……代王が云っていた、影の魔王とやら……どうせ、王都にいるのだろう」
「では、おびき寄せましょう」
いきなりストラがそう云って、
「魔王の打倒を最優先します。オネランノタル、ガフ=シュ=インの時と同じく、自律式の魔導兵を多数作り、兵団を組んで王都に攻め上ってください」
「なんと……!」
オネランノタルが四ツ目を見開いて驚愕したが、他の4人も同様だった。
「よし分かった。とびきりのやつを、用意することとしよう」
オネランノタルが耳まで裂けた三日月形の口に鮫のような三角牙を並べて、ニンマリと笑みを浮かべた。




