第16章「るてん」 6-22 破天の光、異次元の力、滅美の神
プランタンタンが軽い嘆息と共に、シャボン玉のようなバリアの中でゆっくりと回りながら云った。一緒にいるわけではなくプランタンタンの声が聞こえたわけでもなかったが、離れた場所でフューヴァもバリアの中で、
「……まったくだぜ……」
そうつぶやいた。
ペートリューはもっと高度の低い場所を漂いながら、バリア内にひっくり返ったまま大爆笑して水筒の酒をガブ飲みしていた。こんな光景を肴に酒を飲めるのは、ペートリューだけだ。何と幸福なのだろう。ペートリューは涙が出てきた。
オネランノタルは猛速度でローウェイに向かっていたが、大爆発の閃光が走った瞬間、全てを理解して、魔力バリアを展開した。
オネランノタルの魔力防御壁は位相空間をずらす亜空間防御ではなく物理的な障壁だったので、全身を囲ったカプセル状のバリアごと爆風と衝撃波に押されて20キロ近くもぶっ飛ばされた。
そのまま激しく地面に叩きつけられ、大量の土砂に埋まったが、オネランノタルはすかさず空中に飛びあがって、成層圏まで達するような超巨大キノコ雲を見あげた。
「キィイイイーーーーーーーヒヒヒヒヒヒヒッヒッヒヒヒヒヒヒヒ!!!! イヒィーイイイイイーーーーーーーキッヒヒヒーーーーッヒヒヒ……!!」
狂気的な哄笑をあげたオネランノタルが空中でひっくり返り、腹を抱えて大爆笑。
「……こッ、これだ! この光景こそが、私がストラ氏に追い求めていたものだ!! ようやく眼前で観れたぞ!! これが! ウルゲリアを滅ぼし、ゲベロ島で魔王を打倒した破天の光!! 異次元の力だ!! 素晴らしい!! 素晴らしいいいい!!!! ううう美しすぎるぅううううーーーッ!!!!」
オネランノタルはいつまでもその光景に酔いしれ、四ツ目を見開いて稲妻を発する分厚いキノコ雲を鑑賞した。
そして、同様に巨大な雲柱を見あげて狂喜乱舞している者が、もう1人……。
数人の配下と共に街から10キロほどの地点で様子を見ていたが、閃光と共に部下たちは熱線と衝撃波で消失した。
自動的に何十枚という強力な護符が発動し、一種の時空結界を形成。ストラの亜空間バリアと同様の効果をもたらし、その者はかろうして助かった。
護符が少しでも少なかったら……秘術が少しでも弱かったら……術の発動が刹那でも遅かったら……助からなかった。
灼熱の炎の奔流と大爆風が逆巻く中、直径1キロもの数百万度の火の玉が天に向かって登ってゆき、第2の太陽のように上空に輝いた。
凄まじいキノコ雲が火球を追って湧きあがり、その者は天を見あげて、額に手を当ててこちらも狂ったように哄笑した。
「アハアーーーーッハハハハハハ!! アヒィーーーーッ……!! アハッ、アハ、アハハハハハハ……ハヒ……ハイィ……ィヒヒヒヒヒヒ……!!」
女は、まぎれもなくヅーウァン=シャンであった。
が、変身術が解けるように、女の顔や肉体が変化した。
背が高くなり、肉体はさらに豊満になって、道士服からはちきれんばかりになった。道士の髷も解け、長い黒髪が蛇のように波打った。
この者は……物語の冒頭で、薬草風呂に入っていた、陛下と呼ばれた女に他ならなかった。
この者がヅーウァン=シャンに化け、ルゥ商会にクモ魔族を放ち、自ら退治に出向いてあえてそれを失敗し、ストラたちを巻きこんだのだ。
異次元魔王の力を見極めるために。
人物は髪をふり乱して歓喜、感涙滂沱し、自らの厳重なる護符に囲まれた結界の中で両手を広げて、眼前に立ちのぼった天使の翼のように広がる巨大な灼熱の雲塊を讃えた。
「素晴らしい!! 最高に素晴らしい!!!! 見よ、天の怒りを!! 1000年にわたり流転を繰り返してきた、呪われし我が滅亡王朝と呪われた国と呪われた国の民を、異次元魔王様に滅ぼしていただこう!! おお、滅美よ!! 滅美の神よ!! そのことごとくを灰にしてくだされ!! 3つの箒星が、偉大なる滅美の神を御連れ下すったのだ!! 貴女様こそ、このどうしようもなく腐りきって魔力に満ちる世を、今すぐ滅亡せしめくださる救世主なり!!!! いずれ死にゆくこの世での艱難辛苦を、すぐにでも断ち切って我らを救ってくだされ!!!! この生きる苦しみを、浄化の炎で灰にしてくだされ!!!! アハ!! アハあッ!! ハッハッ! アアーーーッハハハハ!! イヒァーーッ!! アィイヒャヒャヒャアハハハハ……!!」
そのまま女が突っ伏し、ビクビクと全身を引きつらせて、笑い続けた。
真っ黒い、死の雨が降り注ぎ始めた。




