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第16章「るてん」 6-21 ミレド製造施設

 階段を下りきると、小さな踊り場があり、同じような鋼鉄のドアがあった。

 このドアの向こうが、狭隘な探査不能地下空間だ。


 このドアは巨大金庫の扉のように厚さが2メートもあり、開くというより扉ごと奥に押しこまれて通路を形成する。


 ストラはまず、扉をつま先で軽く蹴った。蹴っただけで鋼鉄が凹んで亀裂が入り、10センチほども扉全体がひっこんだ。その瞬間、魔術的かつ物理的な開閉機構が破壊された。それから、扉に右手を当て、強引に押して歩き始めた。


 巨大な力で機械を丸めるような破壊圧搾音と共に扉が後退し、火花が散った。さらには地震めて地下ごとガグガグと部屋が揺れ、天井の石材が一部落ちた。


 通常であれば魔術機構により自動で奥へひっこんだ扉はそのまま水平に横移動し、関係者を通すのだが、ストラがそのまま押しこんだので、分厚い扉は完全に外れて部屋の中で止まった。


 室内は真っ暗で、また何もない長方形のただの空間だった。

 ここで暗証代わりの呪文を唱えると、他の空間に転移する仕掛けだ。


 ルートヴァンやオネランノタルであれば魔力のゆがみや術の痕跡から空間への入り口を発見し、侵入することが可能だが、ストラは魔術的機構は探査不能だったので、純粋に空間のゆがみを計測する。


 そこに、補助機能ながらこの程度の空間制御は余裕の位相空間開閉プログラムを作動させ、強引に事象の地平線を割って侵入する。


 バリバリと空間が裂け、空間断層独特の虹色の光が煌めき、ストラが大きな建物の内部に到達した。


 昼のように明るい魔導照明の元、体育館ほどの大きさのフロアに魔導手工業マジック・マニュファクチュアで魔薬を精製するラインが2つ並んでいて、無何有ミレドのほか、各種魔薬を製造している。また壁で区切られた研究棟も隣接しており、日々無何有ミレド精製の研究をしていた。かつて魔導都市マーラルの「黒い角」で製造されていた、純白の無何有ミレドの復活を夢見て。


 ここ・・こそが、岐山チィシャンの真の無何有ミレド製造施設だ。

 あの廃城は、やはり罠であった。

 当然ながら、現場は大混乱だった。


 魔導警報が鳴り響き、物品や資料、薬物の現物を避難させるものと我先に逃げ出すもの、迎撃の準備をするものでハチャメチャだった。


 とにかく、ストラの侵攻速度が常軌を逸している。

 地上の空き事務所で扉を護る魔族がやられてから、5分も経っていないのだ。


 この亜空間に隠された無何有ミレド工場に敵が攻めこむことはきちんと想定されており、体制や装備を整え、シミュレーションや訓練も行われていたが、それらが全て水泡に帰すほどの想定外の度合いだった。


 「どけ! どけえッ!!」

 配備されていた魔導兵は、なんとバーレ王国の正規兵だった。


 秘密魔導組織チィシャンは王国の直轄になっており、無何有ミレドの製造と研究も王国の予算により公的な仕事として行われていた。


 罠の廃城に大規模な魔術を施したのも、バーレの魔導と裏の仕事を牛耳る組織の人間だ。


 「何者だ、貴様!!」


 まだ背後に空間断層光を背負っているストラに向かい、フル魔導装備の兵士が叫んだ。


 「面倒くさいので、本浅深度亜空間ごと大規模破壊を実行します」

 云うが、ストラが疑似核融合による3メガトン相当の大爆発を起こす。


 まだストラの背後にはローウェイに通じる元の空間への空間路が開いており、空間が膨れあがって、そこから裂けた。


 切れ目から、大量の熱と破壊エネルギーがローウェイに雪崩れをうってほとばしった。


 ローウェイの地下で3メガトンの核融合爆発が起きたので、当たり前だが、ローウェイ市は直径が1キロを超える灼熱の火球に焼かれて一瞬で蒸発。跡形も無く吹き飛んで、人も物も何もかも、ことごとくが熱分解された。周辺農村や街道筋の村々も、半径30キロほどが凄まじい衝撃波で吹き飛ばされて、綺麗さっぱり無くなった。


 「……なんだ、こりゃあ……!!」


 真っ赤に蠢く膨大な熱と炎の奔流の中で、酔いも醒めた少年姿のリン=ドンが呆然とそうつぶやいた。


 瞬時に空間バリアに包まれたプランタンタンたち3人とリン=ドンが、熱と光と衝撃から遮断され、空中に浮いて漂っていた。4人はそれこそ位相空間がずれているので、まるで三次元劇場シアターを観ているかのような感覚だった。


 「相変わらず、ストラの旦那は容赦がねえでやんす」

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