第16章「るてん」 6-19 解けた魔法
そう思って、フューヴァが顔をしかめた。
ローウェイ城や、グイヤンの本部屋敷などの有力者の屋敷には大きな池があるので、地下水を汲みあげるか川から引き入れるかして水を確保して、それを排水する機構が存在する。
城塞都市ローウェイには北の川から引き入れた2本の用水と3本の排水構があり、排水溝は下水も兼ねていた。水はそのまま荒涼とした大地に垂れ流しの自然浸透で、夏には青草が生えて排水の養分を消化している。その草を利用し、牧畜も行われている。
3人はちょうど東門と北門の両方が見える位置の、城塞の角の近くで、街に水を引き入れる地下用水路に到達した。鉄格子の大きなグレーチング蓋があり、ゴウゴウと水流の音がする。上から覗いてもよく見えなかったが、すごい勢いなのは音で分かった。
「これ、落ちたら助からねえぞ」
フューヴァが驚いて云った。
「冬なのに、水量がすごいですね……」
ペートリューも水筒を傾けながら、目を見張った。
「蓋も重てえな!」
フューヴァが試しに鉄格子の蓋を持ち上げようとして、びくともしないので、二度驚く。
「こっからの脱出は無理でやんす……」
プランタンタンも、口惜しそうにつぶやいた。
「しょうがねえ、違う手を考えようぜ」
「おい、あんたら何やってんだ!? 危ないぞ!」
3人が驚いて声のほうを向いた。
壮年の商人体の男で、厚い綿の防寒着を着こみ、白い息で3人に寄った。
「外国の人か? そこは危ないぞ。言葉は分かるのか?」
「あ、ああ、分かるぜ」
フューヴァが前に出た。
「帝都かどこかの商人か? こんなところまでよく来たな」
「まあな」
適当に誤魔化し、行こうとする。
「ちょっと迷ったんだ。水の音がしたので、何かなと……もう行くぜ。心配してくれて、ありがとよ」
「そうか……」
男が、すれ違うように街のほうへ向かう3人を見送ろうとして……。
「お、おい……まんなかのやつは、なんだ!?」
ギョッとして、前を行くフューヴァが真ん中のプランタンタンをふり返り、最後のペートリューは前のプランタンタンの後頭部を見やった。
長い耳が見えている。
「あ……!」
フューヴァが、プランタンタンを凝視して息を飲んだ。
「?」
プランタンタンもハタと気づき、自分の顔や耳を触って、慌てた。
リースヴィルの変身魔法が解けている。
何故かというと、ちょうどこのタイミングでリースヴィル3号がチィシャンの罠に倒れ、消失したためだ。
プランタンタン、急いでオネランノタルからもらった魔法のフードをひっかぶったが、遅かった。
男の顔色が変わった。
「おい、おまえ……それ、もしかして精霊気か? 精霊気を捕まえたのか!? 売ってくれないか!? カネならいくらでも出すぞ!! おい!!」
「逃げろ!!」
フューヴァとプランタンタンが有無を言わさずに走り、
「おい待て!!」
男が2人を追いかけたが、走りかけてよろめいたペートリューにぶつかって路地に転がった。
「邪魔だァ!!」
起き上がるや鬼みたいな形相でペートリューを押しやり、ペートリューが立てかけてある資材を崩しながら転がった。
「そいつらを捕まえろ!! 生きた精霊気だぞ!!」
屋台や露店の並んだ路地を走る2人に、いっせいに人が群がった。
「……精霊気だと!?」
「どこだ、どこだ!?」
「おまえか!?」
「俺が捕まえる!!」
プランタンタンは魔法のフードをかぶっていたので、フューヴァに掴みかかる者も多かった。
「てめえ、離しやがれ!!」
「フューヴァさん!」
「姿を消せ! プランタンタン!」




