第16章「るてん」 6-18 排水溝
天井が滑るように狭まり、魔力干渉波が檻を形成する。
(……間に合わ……)
オネランノタルが覚悟した時、そこに爆発的な推進でオネランノタルを追い越したリースヴィルが突っこんだ。
干渉波がスパークし、リースヴィルを急速に分解する。
光の柱の動きが鈍った。
「御速く!!」
オネランノタル、振り向きもせずに直進。ギリギリのタイミングで脱出に成功した。
そのまま上空から細長い鳥かごのような光の檻を見下ろし……オネランノタルは牙をかみしめ、四ツ目を憤怒に歪めた。
「……舐めたマネを……!!!!」
人間のような感傷は無かったが、舐められ、仲間を失った怒りはあった。いくらリースヴィルはルートヴァンが好きなだけ生み出せるとしても、経験や記憶は引き継がない。次のリースヴィルは、いま死んだリースヴィルとは「別人」だ。
「……!!!!」
怒りで魔力が蜷局を巻き、四ツ目を光らせたオネランノタルが最高速でローウェイに戻った。
街を脱出するべく急いでいたプランタンタンたち3人、早朝から混んでいる市場通りを避け、裏通りを走った。
時間的には、リン=ドンがルゥ商会を襲い、オネランオタルとリースヴィルはまだ廃城に向かって高速飛行しているころだ。
プランタンタンとフューヴァは、これしきの行動は御手の物だが、やはりペートリューがヒィヒィ云いだしてどんどん遅れる。たかが数十メートルを走っただけなのに……。
「おいばか、急げよ!」
フューヴァが苛ついてそう叫び、辻でペートリューが追いつくのを待った。確かゲベロ島でもペートリューだけが逃げ遅れて、島民に捕まっていたような気がした。
「まあまあフューヴァさん、いまは別に誰かに追われているわけじゃあねえでやんすし……あまり急いで目立ってもなんでさあ。それより、どうやって関所を出るか……」
プランタンタンが人間に変身していても大きな目を細めて、路地裏から楼閣のある正門の方角を見やった。城塞都市なので、東西南北にある門を通るか、城壁をよじ登って越えて降りるか、どちらかだ。
「云われてみりゃあ、街を出ろっつっても、難しいな」
フューヴァも顔をしかめた。
もちろん、こういうときにペートリューが魔法を使えば少しは楽なのだろうが……とっくにもう2人とも、ペートリューを魔術師扱いしていない。
「……リン=ドンと合流したほうが、速かったかもしれないな」
勢いに任せて駆けだしてしまったが、フューヴァがそう後悔した。
「ハヒィー!」
ようやくペートリューが追いつき、冬の空気に白く酒臭い息を吐きつけて、やっぱり水筒から酒を飲んだ。
飲まないと、動けないのだ。生理機能的に、そうなってしまっている。
「少し休んで、脱出の方法を考えようぜ」
フューヴァがそう云ったが、ペートリュー、息を切らせながら、
「げっ……げっ……」
「なんだよ、吐きそうなのかよ」
「げすッ……下水というか……雨水を流す……排水溝があるはずッ……ですぅ……」
フューヴァとプランタンタンが、顔を見合わせた。
「おい、さすがじゃねえか。変なところに気が回るのは、酒の力だな!」
さっそく、街の隅まで小走りで進み、城壁際に到達した。そのまま、20メートルはあるだろう高い版築の壁際を壁にそって歩いた。広い小路のようになっている部分もあれば、街が城壁と一体化しているような場所もあった。
「排水溝なんかねえぞ」
つぶやきながら、フューヴァが左右を見渡した。
ペートリューも水筒を傾けつつ、
「暗渠になっているかも……」
川に蓋をした、地下排水溝という意味である。
「水の音が聴こえるでやんす」
プランタンタンがそう云って、小走りに進んだ。城壁際は云わば街はずれなので、喧噪も遠く静かである。
「こっちでやんす」
「おい、1人でいくなよ!」
プランタンタンがどんどん先に行ってしまい、ごちゃごちゃした下町の路地に入ってしまって、見失いそうになる。
(なんかの拍子で、エルフだってバレたら、とんでもねえことになるぞ!)




