第16章「るてん」 6-15 総額120万トンプ
そのリン=ドンの頭上に、ずっとストラのテトラパウケナティス構造体分離方式による円盤が浮かんでいたが、リン=ドンはこれが何なのかまったく分かっていなかった。
(今更だが……こりゃ、魔王様のまじないか……?)
そう思うと、力もわいてくる。
(魔王様が、直々にかようなものをくださるとは!)
グイヤンの本部にも大きな池があり、氷結していたが、リン=ドンがその上を渡ると御神渡りめいてバギバギと亀裂の筋ができた。
その妖気を合図として、蔵を護っていた魔族が、
「来たぞ! なかなかの妖気だ!」
蛟竜の姿となり、池を渡りきったリン=ドンが、小さな建物を破壊しつつ蔵に突進した。
「な……なんだ、ありゃあ!」
グイヤンの要人らも、30メートルの巨大な蛟竜に度肝を抜かした。
形状不明の、様々な甲殻類や蟲類を滅茶苦茶に混ぜたような5体の魔物がよってたかってリン=ドンに群がったが、リン=ドンが大口を開けてバクバクと食い始めた。
その隙に、意識と知恵のある4体の半魔族のような連中が、リン=ドンへ魔力の直接行使で攻撃をしかける。
さらに、魔族の3体が魔力から強力な武器を造り、リン=ドンへ踊りかかった。この3体は云わば武闘派で、直接攻撃を担う。
それらがいっせいに踊りかかっては、リン=ドンといえども苦戦はおろか、下手をすると敗北もあり得る。
「ズダズダにしてくれる!!」
三本角があり、青い顔に稲妻型の赤と黒の模様の入った大柄な魔族が、これも大きな青龍刀を両手に持ってリン=ドンへ叩きつけた。空中に分厚い氷の楯ができてそれを受けたが、魔族は一撃で破壊した。
「もう一丁だ!」
鋼鉄の棍の先に巨大な片刃の刀がついている形状の竿上武器である青龍刀を振りあげ、のたうち回って魔物どもと戦うリン=ドンへ振り下ろした。
が、上空の銀円盤から猛烈な出力のプラズマ弾が発射され、魔族の胴体に大穴が空いた。
「!?」
何事が起きたのかリン=ドンですら理解できず、敵味方両者とも一瞬、動きが止まった。
魔力中枢器官が破壊され、その青鬼めいた大柄な魔族が、驚愕の表情のまま、粉微塵に崩れ融けて空中に消えた。
(こ、こいつの攻撃か!?)
他の魔族がリン=ドンを見やったが、リン=ドンも半魔族の1体を咥えた蛟竜の姿のまま驚いて固まっているので、わけが分からなかった。
その時、直径30センチほどの銀円盤が高音をたてて回転を始め、1体の魔族に向けてチェーンガンめいてプラズマ弾を一定間隔で連射し始めた。
「なんだ、なん……!」
魔族が武器でその弾をはじいたが、重い! 弾かれたプラズマ弾はそこらに着弾し、迫撃砲めいて建物を吹っ飛ばして爆炎をあげ、3発目で受けきれずにその魔族が木端微塵になった。
魔族を2体倒したところで円盤が回転をやめ、
「有り難や魔王様!!」
リン=ドンが勇躍する。
水気が凝縮して凍りつき、魔法の矢代わりの氷弾として周囲に降り注がれた。
「ギャッ!」
様子見と無何有の避難に出てきていた組織の人間が次々に打ち倒され、血を流して転がった。
さらに半魔族の怪物どもを尾でなぎ倒し、瞬く間に丸呑み。胴体にとりついていた最後の半魔族に咬みついて、魔力を吸収しつつ一息に呑みこむと、いよいよ3人目の魔族に立ち向かった。
だが、魔族はとっくに逃げており、気配すらなかった。
魔物と半魔族の計9体を呑んだリン=ドン、鱈腹で蔵に近づいた。
そのまま巨体で蔵に巻きつき、締めあげて屋根と壁を破壊。少年姿になると亀裂から中に入った。部屋の中央に大きな棚があり、30個ほども小さな陶器の瓶が並んでいる。
全て無何有の小瓶だ。
1つが卸値で4万トンプとすると、総額で120万トンプにもなる量だった。末端価格だといくらになるか、俄かに想像もできない量だ。
少年姿のリン=ドンの口が耳まで裂け、ニンマリと笑みを浮かべる。
護衛の魔物や魔族がみなやられて、大蛇のバケモノが消えてから、全く静かになってしまったので、グイヤン党首ホウ=ラオを含めて組織の幹部がおそるおそる蔵に近づいた。
傾いだ蔵の、半分開いた正面の分厚い扉の隙間から中を覗くと、栄養ドリンクでも飲み干している感覚で、床に座りこんだリン=ドンがラッパ飲みに瓶の中の無何有をザラザラと口に入れている。




