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第16章「るてん」 6-12 食うとうまい

 「……!?」


 ルゥは恐怖でリン=ドンが何を云っているのかもわからず、ただただ震えていた。


 そのルゥに頭からかぶりつき、ティラノサウルスも真っ青の巨大な牙でバクバクと全身を穴だらけにしつつ、血を振りまいて丸呑みにする。


 「ゲェ……!」

 飛び散ったルゥの血を浴びた番頭たちが絶望に青ざめて、へなへなと崩れた。


 その3人もたちまち食ってしまったリン=ドン、ズルリ……と霧から実体に変わり、扉を押し破って通路に出た。


 そのまま通路を通って、無何有ミレドの在庫がある厳重に秘匿された棚のあるルゥの寝室に向かった。


 「ギャアアアア!」

 「うわああああ!!」


 リン=ドンを見やった店の者が次々に魂消たまげるような悲鳴をあげ、ひっくり返って気絶するか、ひっくり返って転がるように逃げた。用心棒も多数いるが、クモ魔族すら相手にできないほどなので、どうしようもない。


 「急いで昨日の道士を呼びもどしやが……」


 そう叫んだ1人が、2メートルはあろう巨大な氷柱ツララに胸を串刺しにされて倒れ伏した。


 「旦那様! 旦那様!!」

 「御逃げくだされ!!」

 ルゥを心配して店の者がそう叫んだが、とっくにリン=ドンの腹の中だった。

 「旦那さ……!」


 その中年男性にも魔法の矢マジック・ミサイルめいて多数の氷柱が飛び、脳天を含めて全身に突き刺さって絶命する。


 店の人間が我先に街へと逃げ出して無人になった店内と屋敷で、リン=ドンは臭いを頼りにルゥの寝室に到着。少年の姿になると、厳重に鍵をかけられた扉を難なくぶち破って侵入した。そのまま重そうな衣装ダンスを片手でひっくり返し、壁の隠し扉を破壊した。鋼鉄の扉だったが、リン=ドンの鋭い爪……いや、超高圧水カッターが易々と切り裂いた。


 扉が床に落ち、小さな金庫が現れる。その金庫も真っ二つにして、陶器の小瓶が2つ転がって現れた。


 (これが、ホンモノの無何有ミレドとやらか……)


 リン=ドンが小瓶を手に取り、興味深げに見やった。蝋で封がしてあったのでそれをとって掌に中身を出すと、薄茶色い氷砂糖のような粒がザラッとリン=ドンの小さな手に出てきた。


 (ふうん……)


 オネランノタルが、魔族は食うとうまいと云っていたのを思い出し、食い意地のはったリン=ドンは掌の無何有ミレドを口に放り入れた。


 「むぅッ……!!!!」


 魔族(魔物)には脳も神経もないので魔薬を含めて薬物は作用のしようがないのだが、無何有ミレドに関しては魔力を一時的に変質せしめ、快楽に似た感覚を魔族に及ぼすのは第14章第2場で記してある。


 「うわああお……!」

 リン=ドンが目を見張り、全身に電気が走ったように小刻みに震えた。


 そして、残っていた小瓶の中身を一気に口に入れ、もう1つの小瓶もラッパ飲みにするように口をつけて飲んでしまった。


 「こりゃああ、いい! これを喰うだけでも、魔王様についてきて大正解だ!!」

 リン=ドンが小躍りし、次の場所に向かった。

 次は、ローウェイ太守の屋敷だ。

 


 太守のツーァン=カンは54歳になる。ツーァン家は3代前にローウェイ太守を仰せつかり、以後、特に失態も無く順調に太守の地位を護っていた。その秘訣がカアン州に蔓延する各種の魔薬及び麻薬であり、その極めつけが無何有ミレドであった。前太守が厳しく取り締まっていた麻やケシに相当する植物の畑を、ツーァン家が逆に独占したのである。それを裏組織に売りつけ、薬物に加工して安く買っていた。


 もっとも、ツーァン=カン太守が売りつける相手は王都の商人ではなく、身内の役人どもだった。そこはグイヤンやチィシャンなどの裏組織を立て、直接販売利益を得るより組織からの上納金を得るほうを選んだ。それが、組織との良好な関係を維持している。


 従って、太守が所持している無何有ミレドは極少量だった。ルゥ商会にあった量の半分以下だ。しかも無何有ミレドに関しては割引が効かず、ツーァン=カンはたまに献上される物のほか少しずつ買いためては配下の役人たちへの褒美として与え、支配に使っていた。


 リン=ドンが闇を伝ってローウェイの城に入りこみ……少年姿で城内を歩いた。城内に少年少女の使用人や出入りの商人の御付がいないわけではなく、術でその姿に化けたので、あまり怪しまれなかった。もっとも、1人で最重要区画に立ち入っていたので、すれ違った中級の役人がギョッとし、


 「おい! ここは、おまえが来るようなところではな……!」

 怒鳴りつけたとたん、リン=ドンが妖術をかけていた。

 「太守の部屋はどこだ?」

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