第16章「るてん」 6-10 謎の空間
「では、我々も行動を開始しましょう」
ストラがそう云い、
「リン=ドン、正体を現しても結構ですので、4か所の無何有を処分してください。方法は任せます。量は、合計で1キログラムもありません」
空間にローウェイの三次元地図を出した。既に三次元探査済みなのだ。4か所に、光点で印がしてあった。
「はい、魔王様」
リン=ドンが両袖を合わせて礼をした。
「ちなみに、この4か所は……ルゥ商会と、他の3か所は?」
ストラは主だった住民の脳内探査や街の過去空間記憶探査も昨夜のうちに完了しており、
「ルゥ商会のほか、最も大量に保管してあるのがグイヤンなる大きな暗黒組織です。この裏組織が、この街の暗黒街の総取締です。なお、ルゥ商会の女主人はグイヤン頭目の愛人の1人です。次が、ローウェイ太守の屋敷です。自身で使用するほか、高級役人を支配するのに使っている模様です。次が、そのチィシャンなる組織です。ここは無何有の後継組織との情報ですが……そのわりに、異様に規模が小さく、小さな事務所しかありませんし、無何有の反応も最も少ないです」
「なんで、そんなちっぽけな事務所にミレドやらがあるんでやんす?」
プランタンタンが、当たり前の疑問を発した。
「そこが謎ですが……組織に魔術師……こちらの国では道士ですが……が、非常に多く所属しています。その魔術師は、いまオネランノタルとリースヴィルが向かった製造場所と思わしき砦と頻繁に行き来しています」
「つまり、そこがミレドの製造拠点ってことですか?」
いきなりペートリューが、素面のような声で、そう云った。
ペートリューがまともなことを云いだした……と、プランタンタンとフューヴァがハッと息を飲んだ。そう云う場合、いきなり核心に迫るパターンが多い。
「その可能性は高いでしょう」
案の定、ストラがそう答えたので、プランタンタンとフューヴァは気を引き締めた
さらにペートリューが三次元立体地図を見やり、
「ストラさん、この地下の小さい四角い部分は何ですか?」
ペートリューが指摘するまで、プランタンタンもフューヴァもまったく気がつかなかったが、三次元立体地図の下方に、線が伸びるようにして通路のようなものが伸びており、その先に本当に小さな四角があった。
しかも、四角が黒い。他の建物は線模様だが、そこだけ塗りつぶされている。
「そこは、私の探査波では探査できない謎の空間です」
「旦那のタンチ魔法でも、分からねえんでやんすか!」
プランタンタンが、思わずそう声をあげた。
「はい、これまでの事例では、ギュムンデの魔導実験地下空間やゲベロ島の地下に埋没していた宇宙船ヤマハルのように、空間制御を伴う厳重な秘匿空間だった場合、私の三次元探査波が到達しません。従って、ここもその可能性が高いです」
「こんなちっぽけな部屋が、そんなに重要なのかよ!?」
フューヴァが驚いた。
「ストラさん、いま空間制御と仰いましたが……」
ペートリューが、酒に澱んでいながらも、その奥に鋭い潜在魔力を秘めた刺すような瞳でストラを見やった。
「はい」
「私はルーテルさんやオネランノタルさんみたいに、詳しいことは分かりませんが……帝都で、オッサンさんのいた別の世界があったじゃないですか。つまり、ここはそういう広い別の世界への入口なのでは……?」
もしここにルートヴァンがいたら、感心かつ満足げにうなずいていただろう。
プランタンタンとフューヴァも、真剣な表情でペートリューを見つめていた。
ストラも半眼無表情でペートリューに向かい、
「……はい、そのため、私はここを直に調査しに行きます。場合と状況によっては、そのまま浅深度亜空間ごと大規模破壊に移行します。4人には、その際は自動的に亜空間防御バリアを展開します」
云うが、久しぶりにテトラパウケナティス構造体分離方式が起動。
ゲベロ島で大規模プログラム破損をくらって使用不能になってから、初めての起動だった。
4人の頭上に、銀色の皿のような円盤が浮かびあがり、見ようによってはまるで天使の輪だった。この自律式の浮遊円盤兵器が、ストラと別行動になった場合の戦闘力の低い3人を護る。リン=ドンは、非常時の亜空間バリア用だ。
「では、作戦を開始します。リン=ドン、御願いします。手段は問いません。無何有の在庫を一掃してください。妨害するものの処分は任せます」
「御任せを!」
両袖を合わせて礼をしたリン=ドン、その姿のまま、物陰に溶けるように消えた。
「3人は、念のためできるだけ街を離れていてください」




