第16章「るてん」 6-7 商談
「よおし、道士様とペートリューさんの呑み比べだ! さあ、呑んでー呑んでー呑んでー呑んでー、もっと呑むとこ見てみたいー!! ソレ!!」
ぼったくりホストクラブめいてイケメンどもが囃し立て、どんどん2人に酒を注いだ。それを2人そろって、注がれるままに空けてゆく。
フューヴァとプランタンタンがドン引きして、少し席を離れた。
オネランノタルはつきあっていられないので姿を消し、大広間の隅に佇んでいた。リースヴィルとストラは、人類偽装行動で適当に飲み食いをして平然としている。リースヴィルは少年の姿なので、茶を飲んでいた。リン=ドンも別に人間の食べ物を食べる必要はなかったが、味が好きらしく高級料理を次々に平らげていた。これは、長年、泉の近くの村より供物を受けていた習慣のためだ。いま卓にこれでもかと並んでいる料理の数々は、供物の質素な料理とは別次元のうまさだった。
「さあさあさあ、素晴らしい配下の方々を御持ちの勇者様も、私めの酌でよろしければ、御近づきのしるしに……」
「はい」
ストラの横にルゥが座り、満面の笑みでストラに酒を注いだ。
「こちらの坊ちゃん……いいえ! 魔術師様も、あのとんでもないバケモノを、まっぷたつになさったと伺いましたよ!」
そこでストラ、リースヴィルと目を合わせて小さくうなずいた。リースヴィルが笑顔で、
「ルゥさん、あのバケモノはどういった経緯で……?」
「それが、いきなり現れて屋敷の奥に巣くいやがって……いいえ、住み着きまして、たいへんな難儀を……この街の道士様では歯が立たず、王都の道士様に来てもらって、やっとその正体が見るもおぞましいクモのバケモノと分かり……!!」
ルゥが、そこで全身を震わせて身もだえた。心底クモが嫌いなのだ。
「それを坊ちゃん……じゃなくって、こんな御若くて御可愛いうえに御強い魔術師様が……! ささ、甘いものでも御食べになって……」
ルゥが頬を赤らめて、饅頭の山が乗った皿をとった。少し、ショタの気があるのだ。
「ど、どうも」
リースヴィルが桃の形をした甘い餡の入った饅頭を1つり手に取り、口にした。
「ルゥさん、我々は帝都から来たばかりでよく分からないのですが、この国あるいはこの街では、あのような大型の魔族あるいは魔物が、よく人家に出るのですか?」
ストラが仏頂面でそう云い、ルゥが首を振った。
「とんでもない! 聴いたこともありません! 初めてのことです!」
ルゥが長い袖を口元に寄せ、眉をひそめて大げさに云った。
「なるほど」
ストラがそんなルゥを象嵌めいた宝石のように美しい眼で見据え、ルゥがたじろいだ。
「ところで、ルゥさん、商談があるのですが」
「……えっ、商談ですか?」
冒険者のはずのストラが意外なことを云ったと思い、ルゥは引きこまれた。
「はい、後で結構ですが……是非お話を。我々は冒険者ですが、とあるものの買い付けに来たのです」
その言葉に、饅頭を食べ終えたリースヴィルがペロリと指を舐めて、鋭い視線をストラに向けた。
「と……とあるもの……とは?」
ルゥも声をひそめた。
「たまたま道士の仲間となり……御近づきになったため、御話しをしておりますが……この街の、こういう大店からバーレ王都経由で、帝都に流れている商品です。御金ならあります。もちろん。相場より、少し高くても結構です」
「な……なるほど」
ルゥが息を飲み。
「なるほど、なるほど……それは……その……確かに、いまでは……そうですね、明日にでも……今日はぜひ、ウチに泊まってくださいまし……」
ルゥが目を細めて、何度もうなずいた。
「ペートリューさんの勝ちだああーーー!!」
そんな大声が、宴会場に響いた。
翌日……。
午後二時ころ。
ストラとリースヴィル、それにフューヴァがルゥ商会の商談客間にいた。
「アタシなんかが、なんでだよ!?」
とフューヴァは思ったが、
「私は、ただの分身です。ルートヴァン様の正式な代理は、貴女様ですよ」
リースヴィルが優しくそう云い、フューヴァは驚くと同時に気を引き締めた。
「御待たせいたしました」
地味ながら高級な、我々の世界のビジネス・スーツに相当する服をまとったルゥが番頭などを引き連れて現れ、両袖を合わせてストラに一礼した。
ちなみに、姿を消したままのオネランノタルも、部屋の隅に立っている。




