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第16章「るてん」 6-6 念力刃

 「その目……シンバルベリルではないようで、安心しましたよ」


 リースヴィルの声がして、使い魔クモの塊が内側から乾山のような針の束に串刺しにされ、動きを止めるやバラバラと散らばった。ただの針ではない。魔力の塊なので、魔毒のような効果で魔物どもの魔力中枢器官を破壊し、絶命せしめた。


 「こやつ……!」

 さしものクモ魔族も驚き、後退あとずさった。

 「つぶれろ!!」


 火気類を含む攻撃魔法は、この密集した家屋街では余計な被害を与える可能性が高いと判断し、リースヴィルが念力の塊をクモ魔族に向かって投げつけた。


 ところが、クモ魔族め、身を低くし腹部を高く掲げて、魔力に光る装甲版を楯のように持ち上げた。とたん、念力の塊が反射してリースヴィルに返ってきた。


 「なに……!?」


 咄嗟にヅーウァン=シャンを含めて魔力防護壁を思考展開したが、その防御壁ごと押しつぶされ、建物の柱や壁を崩して転がった。


 その部分の天井と屋根材が落ち、リースヴィルが瓦礫に埋もれた。

 その隙に、魔族が逃げ出した。

 「オネランノタル様!」

 「キッヒヒヒ……油断したな、リースヴィル!」


 クモ魔族が通路を渡り、後ろで様子を見ていた店の無頼たちが悲鳴をあげてひっくり返ったところで、クモ魔族め、素早く屋根に上がった。そのまま高層建築の壁を伝って、脱兎のごとく4階建ての屋敷の屋根へ出る。


 「おい、どこへ行く気だ?」


 玄関から空中に浮かび上がったオネランノタルが、フワフワとゴーストめいた姿でクモ魔族の上方をとった。


 「貴様も魔族か!?」


 15の大小の赤い眼で上を見たクモ魔族、慎重にオネランノタルと対峙する。オネランノタルは巧妙に自身の魔力を隠していたので、クモ魔族は重大な敵なのかただの態度のでかいバカなのか判断がつかなかった。


 「だったら、なんだというのだ?」

 (さ……さきほどのやつより魔力が小さい……が……しかし……!)

 その迷いが、判断を鈍らせた。


 リースヴィルが通路から中庭のようなところに出たのを確認したオネランノタルが、問答無用でクモ魔族に強烈な電撃を浴びせた。


 やろうと思えばその一撃で魔力中枢を破壊できたが、店の者らに対する演出で威力を弱める。


 クモ魔族は本能的に防御壁を展開したが、その防御壁を突き抜けたオネランノタルの電撃で全身がマヒし、そのまま落ちた。


 (まずい……!)


 まだ意識があったが、リースヴィルの放った巨大なギロチンのように凝縮した念力刃に対処できなかった。


 この世界の魔族・魔物は単に首を落としただけでは死なず、身体のどこかにあるストラの定義するところの魔力中枢器官を破壊しないといけない。


 リースヴィルやオネランノタルは当然そのことを知っている(認識している)が、勇者になりたてのパーティーでもなかなかその事実を理解できずに、倒したと思った魔物がまだ生きていて、返り討ちにあう場合も多い。


 クモ魔族の胸に相当する部分に全身の魔力の流れが集中しており、脳と心臓を合わせたような部分がある。そこだ。上級の魔族にはその部分を意識的に移動させることができる者もいるが、このクモ魔族はそこまでではない。


 リースヴィルが掲げた右手を振り下ろし、巨大な念力刃がクモ魔族を両断! 魔力中枢器官が破壊され、ジワジワと蒸発するように巨大なクモのバケモノが消失した。


 「終わりました」


 リースヴィルの声がして、おっかなびっくりに顔面蒼白の店の者たちが現れ、クモ魔族の残骸を確認すると、ドッと歓声をあげた。



 「さあさあさあ! どうぞ、帝都の旦那様方! 遠慮なさらずに! どうぞどうぞ!」


 卒倒していた女主人のクォウ=ルゥも復活し、その日は大宴会となった。


 ルゥは見るからに妖艶豊満な、年のころ30すぎほどの美女で、商人ではなく典型的な街の有力者の愛人だった。


 とはいえ、店を任されるだけあって人使いがうまく、店はまずまず繁盛している。


 「道士様も御人が悪い! こんな凄い方々を、隠し玉でとっておいていたなんて……!」


 ヅーウァン=シャンもちゃっかり御相伴にあずかっており、高級な白酒パイヂュウを若い美男イケメンの酌でガブ飲みしていた。


 その飲み方がペートリューもびっくりの呑みっぷりで、フューヴァとプランタンタンが呆れた。もちろん本家のペートリューも、何の仕事もしていないのに店中の酒を呑みつくす勢いだ。


 「道士様も、従者の方もいい呑みっぷりでございますよ! おい、酒が足りなかったらローウェイじゅうの酒を買い占めるんだ! ウチの沽券にかかわるよ!」


 着飾ったルゥが檄を飛ばし、店の無頼が威勢よく返事をして店を出て行った。

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