第16章「るてん」 6-4 そもそも、あなた誰
「確かに、こんな場所にしては、大きな御店ですねえ~~」
グビグビと水筒の白酒を傾け、ペートリューも物珍しそうに店を見やった。
「で? 僕らはどうしたらいいんです? 道士様」
リン=ドンがそう云って、不気味な笑みと共にヅーウァン=シャンを見あげた。
その目にただならぬ妖気を感じたヅーウァン=シャン、軽く息を飲みながら、
「ええ! ……っとおお~~、妖怪退治を手伝ってほしくってですねええ~~」
「ヨウカイ?」
フューヴァが眉をひそめたが、
「魔物ってことですよ。知性があれば、魔族ですが」
リースヴィルがそう説明する。
「はあん」
余裕極まるといった顔で鼻で笑ってフューヴァ、
「じゃ、リースヴィルがちょいと手伝ってやれば?」
などと云う。リースヴィルが苦笑しながら、
「いいですよ」
と返したので、無頼を含む店の者らも、
(この従者はナニモノだ?)
といった顔でフューヴァを凝視した。
「じゃ、ちょっと見てきます。手強そうでしたら、オネランノタル様に連絡します」
「キィッヒッヒヒ……そんな大層な魔物がいる気配はないがね」
どこからそんな声がするのかと思って店の者らがキョロキョロしたが、暗がりに紛れたオネランノタルを捉えることができる者は、店には誰もいなかった。
「こっちです……」
ヅーウァン=シャンが、店の奥にリースヴィルを案内する。
奥の間に近づくにつれ、
(確かに……いきなり、妙に魔力が強くなったな……)
リースヴィルがいぶかしがった。立ち止まって、
「ええと……ちょっと」
「あ、ヅーウァン=シャンです」
「ヅーウァン=シャンさん……これは、どういう経緯で? そもそも、あなた誰なんです?」
「そ! ……そーおですよねええ~~」
ヅーウァン=シャンが汗だくの笑顔でそう云い、何か云おうとしたのを制してリースヴィル、
「ふざけた答えをしたら、魔物と一緒にあなたも殺しますよ」
その目が強大な魔力に光り、全身が総毛だったヅーウァン=シャンが、急に真面目な顔となった。そのまま少年の姿のリースヴィルにすがるように両袖を合わせて礼をして、
「も……! 申し訳ありません!! 私は……王都から妖怪退治でここに派遣された道士ですが……思いのほか手強く……退治に失敗。店の中で大暴れに……また、妖怪はクモのバケモノで、ここの女主人がクモが大の苦手で卒倒してしまいまして……私はもうだめだと、逃げ出した次第で……」
リースヴィルが、呆れ果てた顔となった。
「その逃げる途中で、私たちと?」
「ハ、ハイ……で、半分口から出まかせでしたが……あなた様の魔術を見こんで……協力を……そうしましたら、そちらの御主人様が、よろしいと仰り……」
リースヴィル、大嘆息。
「……いいか、気づいているかもしれないが……私は人間ではない。オネランノタル様も人間ではない。御主人様であるストラ様も人間ではない。あの案内係の少年も人間ではない。おまえなど、瞬きひとつで塵も残さず滅することが可能だ。聖下……ストラ様がどう云う御考えでおまえに協力されるのかは知らんが、あまりふざけていると、この街が跡形も無くなるだけではすまされんぞ」
「えええ~!? いや、またまた……御冗談を~~」
「冗談だと!? 魔物の前に、おまえを八つ裂きにしてやろうか!?」
リースヴィルの恐るべき念力がヅーウァン=シャンを取り囲み、ヅーウァン=シャンがあわてて、
「いえいえいえ! 信じます気をつけますです!!」
「……フン……!」
リースヴィルが通路を先に進み、ヅーウァン=シャンが立ちすくんでいたが、
「おまえが来ないでどうする!!」
「は、はい!」
おっかなびっくり続く。
屋敷はかなり大きく、こんな場末の貧民街・暗黒街のような建物の折り重なった場所で、どうやってこのような空間を確保しているのかも不思議なほどだったが、奥へゆくほど壁や天井が破壊された跡が現れ始めた。床にも、調度品の残骸が散らばっている。
(かなり魔力が濃いぞ……)
その破壊の痕跡を見やり、リースヴィルが慎重に魔力残渣を探った。
(魔獣じゃないな……魔族か……?)




