第16章「るてん」 6-3 ヅーウァン=シャン
「ヅーウァン様! 早く御戻りに! 屋敷が大変なことに!!」
「さあ、早く!」
「逃げようたって、そうはいかねえんで!」
女道士を取り囲んでワイワイわめきだした。
「いやいやいや、あああのあのあのその、いやあああああーー~~~ににに、逃げてなんかいませんよおおおお~~~! そ、そそそのその、そう! そう! こちらの助っ人の方々を、御迎えにきたんですよおおおおおおお~~~~!!」
「ああ!?」
商人と無頼を合わせたようなガラの悪い面々が、ストラたちを睨みつける。反射的にフューヴァが半歩出て、
「んだぁ!?」
眉をひそめてガンをつけた。これはもう、ギュムンデ人の条件反射だ。
「東方人か!? どこの人間だ!?」
「帝都の冒険者だよ!」
「帝都だあ!?」
「文句ぁんのか!!」
「まあ、待て待て!」
無頼どものリーダー格というか、どちらかというと雇い主といったふうの、身なりのまともな中年男性が前に出た。もっとも、身なりがまともなだけで、迫力や面構えは無頼どもの上を行っているが。
「先生の助っ人ってえのは、本当か」
「あ!? んなわけ……」
「そうです」
いきなりストラがそう云ったので、驚いてふり向いたフューヴァだったが、
「そうだ」
また無頼どもを向いてそう云い切った。
「ふうん……」
男が一行を睨みつけながら値踏みし、
「さっぱりわからねえ」
そう云った。
「なにが分からねえんだよ!」
フューヴァがそう凄んで男を睨んだが、男は平然とし、
「たぶん、こちらが旦那なんだろうってえのは分かるが……残りは何なんだ!? ガキと女だけじゃねえか!? そんな東方の冒険者は、聴いたことがねえ!」
そう云われると、確かに相当に変則パーティーなのは間違いないので、フューヴァも黙ってしまった。まさか魔王一行と名乗って良いのかどうか、フューヴァには判断がつかぬ。
(こういうのは、ルーテルさんにまかせっきりだったからなあ……!)
内心、フューヴァが顔をしかめた。
「この3人は、私の従者です。冒険者ではありません。この子は、道案内で雇ったものです。こちらの子は、こう見えて凄腕の魔術師です。あと、こちらの魔術師もかなり強力です」
いつの間に合流したのか、路地の暗がりに漆黒の魔力フード付ローブをひっかぶったオネランノタルが佇んでおり、流石の無頼どももたじろいだ。
「以上。他に不審点はありますか? なお、我々の言語を調整しているのは、この子の魔術です」
男たちが、感心と瞠目の眼でリースヴィルを見やった。
「……道士、こんな助っ人がいるのなら、最初からおっしゃってくだせえよ」
女道士……ヅーウァン=シャンが狼狽を隠しつつ、
「いやまあ、その……奥の手っちゅうやつで……最初からは云いませんよ」
「ほぉう……」
胡散臭げにヅーウァン=シャンを見やって男が、
「ま、では、戻りましょう。助っ人の方々もこちらにどうぞ。代金は、道士から受け取ってくださいよ。こっちは、しりませんからね」
「はい」
ストラがそう云って男たちについて歩きだしたので、一行もゾロゾロと続く。
「おい、いつの間にやら、面白そうなことをやっているじゃないか!」
歩きながら、オネランノタルが小声でフューヴァに云った。
「まったく、ストラ氏は飽きないね!」
「そうかい……」
フューヴァも、苦笑するほかはない。
「おい、道士様の御戻りだ! 御主人様は……」
「奥で御休みに……」
女給が狼狽えながらも、何とかそう答える。
「何屋なんだかわかんねえですが、なかなかの大店でやんす」
プランタンタンが、店構えを見やってそう云った。




