第16章「るてん」 6-2 女道士
「ちげえねえでやんす。リン=ドンとリースヴィルの旦那も、よろしいでやんすか?」
「もちろん、私はどこでもいいです」
「私も」
2人がそう答え、ストラ、
「では、行ってみましょう」
歩き出した。
3キロ四方ほどの狭い城内、30分も歩かぬうちに、急激に住民のガラが悪くなった。建物が密集かつ多層的に上へ上へと積み重ねられるように建て増しされ、区画の道も上は塞がれておりまるでトンネルのようになっていて、その中に入ると昼から暗い。住民たちが無言で刺すような視線を一行に向けたが、そんな視線は慣れっこのフューヴァなどは、むしろ安心した。
「ヘッ、懐かしい空気だぜ」
そう云って、宿屋兼飯屋を物色する。
「だいたい、ルーテルさんが云ってた組織だって、どうせこんな場所に隠れてるんだろうさ。探索だってもってこいだ。もっとも、最初からちょっと目立ってるが……な」
フューヴァが独り言のようにそう云い、
「おいリン=ドンよ、どっかいいところねえか、聞いてくれねえかな」
「術で探したほうが早いですよ……」
リン=ドンがそう云って、何か呪文をブツブツ唱えたときであった。
「ぅわああ!」
すぐそばの路地裏から誰かが走って飛び出てきて、ちょうどそこにいたストラとぶつかりそうになったが、ストラが難なく避けたのでバランスを崩して地面に転がった。
「なんだ?」
みな瞠目すると、女だった。妙に豊満で、若くもなく年増でもない……ちょっとカオのいい、地味な商家の女将といった風情だったが、
「女道士だ」
リン=ドンがそう云って倒れて膝を打ち、苦悶に顔をしかめている女を見下ろした。道士服に納めている大きな胸元がはだけて、大きな乳房が半分もはみ出ていた。道士の頭巾が転がり、独特の女道士の髷も崩れている。
「なんだあ、こいつあ?」
フューヴァが驚いて女をみつめ、
「おい、しっかりしろや」
助け起こそうと手を伸ばした。
そこで女が一向に気づき、
「……あ、ええッ!? ど、どちらの国の方で……!?」
「アタシらは、帝都の冒険者だ」
「帝都の……!? こ、言葉の魔術を!?」
「そうだぜ、何を云っているのか、分かるだろ?」
「分かります分かります……すごいな……貴女が東方の魔法使いですか?」
女がフューヴァの手を取って起き上がり、膝を叩いて土を落とした。
「いや、この子がそう」
フューヴァがそう云って、リースヴィルを指した。
「ええッ!? こ、この子が……!?」
女が目を丸くして、リースヴィルを見据えた。
そうして改めて一行を順に見やり、リン=ドンに気づいて、
「君は、この国の子?」
などと驚きつつ尋ねた。リン=ドンも、
(え……こいつ、私が蛟竜だと気づかないのか……?)
と、逆に驚いて女を見つめた。
「はい、この方たちの案内として雇われております」
「なるほど……」
(なるほど……ではない。なんだ、このヘッポコ道士は)
リン=ドンはそう思って、リースヴィルに向かって首を小さく横に振った。
リースヴィルがそれを察して、かかわりを持たないように、
「さ、もう行きましょうか」
と云った。
「いいのかよ? いろいろ聞かなくて」
リースヴィルがフューヴァに目くばせして、首を小さく横に振った。
(ああ……)
フューヴァも察し、
「じゃあな、気をつけて走れよ」
などと云って行こうとする。
「あ、あま、待ってください! ぜひ、御話しが!」
と、女が云ったところで、路地裏の奥から、
「こんなところに!」
どやどやとガラの悪い男や、少し高級な服を着た商人体の男が5人も現れた。




