第16章「るてん」 6-1 ローウェイ
「ははあ、なるほど……」
オネランノタルがうなずいた。
「リースヴィル、うまくできるか? 私がやると魔力が濃すぎる。エルフといえど、心身に影響が出るだろう」
「変身魔法ですか……効果があまり持続しないので、2~3日かに1回はかけ直す必要がありますが、それでよければ」
「よければもなにも、それくらいですむのならいいんじゃないか? どうせ、リースヴィルは我らとは離れないだろう。プランタンタン、どうだい?」
「ぜひ、お願えするでやんす!」
「決まった。じゃあ、ローウェイへ入る関所で、効果を試すしよう……キィッヒヒッヒヒッヒ……!」
嬉しそうに、オネランノタルが甲高い笑い声を発した。
そのやり取りから2時間ほどで、一行はローウェイの城壁に到着した。
既に、リースヴィルがプランタンタンに魔法をかけている。
耳や目鼻立ちを人間っぽくしているだけなので、ずっとエルフのプランタンタンと接してきたペートリューやフューヴァには違和感があったが、
「まあ、こんなもんじゃないか?」
オネランノタルがそう云った。
「なんか、ちょっと不気味だな」
フューヴァが、片眉を上げてそう云った。見慣れれば、むしろこちらのほうが人間っぽいのだから、違和感は無いはずなのだが。
リースヴィルの出した魔法の鏡で自分の顔を見たプランタンタンも、
「うへえ……」
と唸ったきり、黙りこんでしまった。
そんなこんなで、プランタンタンは久しぶりにフードをとって寒風に当たりながら街道を歩いていた。
オネランノタルは別にして、リン=ドン以外はみな東方人なので、周囲の農村や川辺の漁師、荷役業者などとまじって関所に並んでいると、みなジロジロ見てくる。
オネランノタルはとっくにどこかへ行っており、後で合流する。
リン=ドンも、こんな大きな街は初めて見たので、
「人がいっぱいですねえ!」
などと、完全に御上りさんだった。
「こりゃ、リン=ドンも当てにならねえな……」
フューヴァがそうつぶやいて、嘆息した。
城門の関所では、滅多に現れないものの、帝都やホルストン、バルベッハから訪れる東方商人もいないわけではなく、全く未知の存在というわけではなかったが、冒険者というのは相当に珍しいようで、それなりに賄賂を払っても、1人目のストラからなかなか関所を通れなかった。
面倒くさいので、ストラが脳へ強制催眠波。続いたリン=ドンとリースヴィルも強力な魔法をかけたので、以降のペートリュー、フューヴァ、プランタンタンはわりとスルーだった。
「見破られやせんでしたね……ゲッシッシシ……」
人間に化けたプランタンタンが、楽しそうに笑った。まだその顔に慣れないフューヴァ、不気味そうな目でプランタンタンを見つめた。
とはいえ、一行は城内でも目立った。
リン=ドンが交渉しても、次から次に宿を断られた。
「あんた、まさかさらわれてきたんじゃないだろうね!?」
などと、眉をひそめて云う宿の女将もいた。
「え、なに? この国はそんなにガキが誘拐されるの?」
ギュムンデでも子供の誘拐や子捨てなどはあったが、あの町がかなり特殊だったのは否めない。こんな都で、しかも真昼間から一般の宿屋で出るセリフではない。
「よく知りませんけど、私なんぞに生贄を出しているような国ですのでね」
苦笑しながらリン=ドンがそう云い、フューヴァ、
「説得力があるんだか無いんだか、わかんねえセリフだな」
苦笑も出ずに顔をしかめた。
「ハラ減ったでやんす。まさか、飯も食えねえんじゃないでやんしょうね?」
人間の顔になっても変わらずの猫背で前歯を見せながら、プランタンタンが文句をたれる。
「この分だと、メシ屋も入れてくれねえかもな」
「なんとかしておくんなせえ、リースヴィルの旦那あ」
そう云われても、リースヴィルも困ってしまった。
「小さいですが、下町というか、暗黒街というか……物騒な場所があります。そこなら、金銭次第で滞在できるかもしれません」
ストラがボソボソとそんなことを云い、城塞の北の隅のほうを指さした。
「へえ……行ってみようぜ。アタシたちにゃあ、そっちのほうが御似合いかもな」
フューヴァがニヤニヤしてそう云い、プランタンタンも眼を細めて肩で笑った。




