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第3章「うらぎり」 4-2 一人、3,000トンプ

 「ラグンメータが山の中で拾ってきた女傭兵が、ただ者ではない。凄腕の魔法戦士だ。そんなヤツを近くに置き、いよいよ私への反乱を企てていると考えてもおかしくない。そして、それは……」


 「畏まりました」


 主人へ皆まで云わせず、ターブルが踵を返した。事が露見した際は、全ての責を取って自害する。


 カッセルデントが決意を秘めた目で、その後姿を凝視した。

 


 とはいえ、ラグンメータの周囲の動きがにわかに変わったことなど、常時三次元パターン観測をしているストラには、全て把握できた。探知を回避する高度な魔法的な仕組みでもないかぎり、この世界の通常の諜報戦は、天地がひっくり返ってもストラにはかなわない。


 「先日までとは、明らかに行動が異なっております。買収されたと推測される、一般的な兵士の動きではありません。間違いなく、諜報戦を専門とする特殊工作員が動き出しました」


 ルシマーが息をのんだ。

 「ま、まさか……!」

 「ウワサの、グルペン兵だな……!」

 「そんな奴らを、紛れこませていたとは!」


 「さすが、カッセルデント将軍だ。オレたちの兵にも、10人やそこらは紛れてるだろう」


 「いますぐ御改めを! 最近召し抱えた者、このいくさで新規に抱えたものなど……!」


 「無駄だ。古いものは10年やそこらじゃない。二代、三代と潜伏しているというぞ」


 「そ、そんなことが……!」


 ルシマーは、にわかに信じられなかった。常識では考えられない。代々、律儀に仕えておきながら、実は親や祖父の代からの諜報員だなどと。


 「ス、ストラ殿、何とかなりませんか!」

 ルシマーの涙声に、


 「諜報・暗殺を専門とする工作員の動きは非常に特徴的であり、高度にパターン化されていますので、逆に容易に特定できます。既に、私の探査により陣全体で28人を特定しています。そして、それを統括しているのは、ターブル大隊長です」


 「なんですってえ!?」

 ルシマー、驚愕。

 「あの御調子者が!?」

 そう云ったきり絶句し、ラグンメータを見つめた。

 「フフ……正体を現してきたな……カッセルデント家め……」

 「と……云いますと……!」


 「280年前、フーバル=ラーン藩王家がマンシューアル全土を再統一する際に、真っ先に味方になり、臣下となったのがカッセルデント家だが……その実、あちこちの有力貴族と裏でつながっていてな……。結局それをも利用し、初代藩王が調略の全てを任せたというが……ま、そういう家柄よ、あそこは」


 云いつつ、さしものラグンメータも背筋に冷たいものを感じた。生半可な相手ではないことを、改めて思い知った。


 「伊達に、『皆殺し将軍』と呼ばれていたわけではない」

 それは、若かりし頃のカッセルデントのあだ名だった。

 「それはさておき……さて……どうするか……だが……」

 ラグンメータ、ストラを見やる。

 「ラグンメータ卿さえよろしければ、逆暗殺で全て排除します」


 アッサリと云い放つストラに、ルシマーは目が飛び出んばかりになって、息も止まってストラを凝視する。


 「……アンタが云うと、本当にできそうだから恐ろしいな」

 「できます」

 「わ、分かった、分かった……追加料金はいくらだ」

 ストラ、彫像のように立ったまま、氷のような声で、

 「一人、3,000トンプ」

 「ひ、一人……?」


 ルシマーは意図を図りかね、ストラとラグンメータを交互に見やった。ラグンメータも、やや意外そうな表情かおをし、


 「そ、それは……相手が・・・誰で・・あろうと・・・・、一人につき、3,000トンプ……という意味か?」


 「はい」

 「ターブルだろうと、名も無きグルペン兵だろうと?」

 「はい」

 「将軍だろうと、一兵卒だろうと?」

 「はい」


 ラグンメータが、正直に冷や汗をぬぐった。純粋な、恐怖だった。

 「ど……どういうことですか……」

 ルシマー、まだ意味がよく分からぬ。

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