第16章「るてん」 5-5 エルフ狩り
「ユアサン=ジョウ、アルーバヴェーレシュの直掩だ!」
「騎馬相手には槍がいるだろうよ!」
云いつつ、ユアサン=ジョウが二刀を構える。右大刀は峰で肩にかつぎ、左の小刀を中段に出した。
ホーランコルも魔法の剣を構えた。魔法剣では中の上レベルながら、このヴィヒヴァルンの秘剣にかかれば、馬賊など一撃で打ち殺せる。
と、3部隊のうちの1隊を、雪原に紛れていた狼竜が襲った。馬が動揺し、蹴散らされてバラバラになる。そこを、狼竜が的確に各個撃破した。
「2人は健在だ!」
ホーランコルが叫んだ。
(1人でなければいいがな……)
声に出さずユアサン=ジョウがそう思ったとき、アルーバヴェーレシュの左手の手首に真珠のような大きさの黄色い球が出現し、光を放った。
(なるほど……シンバルベリル……魔宝珠か……! 初めて見るな)
横目でアルーバヴェーレシュを確認し、ユアサン=ジョウが迫ってくる馬賊の他に油断なくマートゥーの刺客にも気を配る。既に接近して、そこらに潜んでいるのは間違いない。
(公儀隠密も真っ青だぜ……)
マートゥーの忍者部隊はマーガル一族という、高名な忍びの集団であった。
アルーバヴェーレシュも探査魔術はあまり使う機会がなかったが、蜘蛛の巣のように魔力による探査の網を広げ、さっそく、
「ホーランコル、馬賊とは違う敵が3人ほど雪に紛れてるぞ」
「なんだって!?」
云うが、魔力探査が光ってその場所を知らせる。
「チッ!!」
隠密どもが雪の中から飛び出て、苦無や小刀を逆手に持ちホーランコルとユアサン=ジョウに踊りかかった。
ホーランコルが迎撃し、剣を振りかざす。
隠密ども、もう少し近づけば必殺の間合いだったが、少し距離があった。また、馬賊どもが襲撃するのを待ってもよかった。どさくさで、背後からユアサン=ジョウを殺せた。完全に想定外だ。
「ぬぅありぃやあああ!!」
ホーランコルの剣が寒気にうなりを上げ、刺客の腕ごと胸に深手を負わせた。魔法効果により、衣服や鎖帷子も切り裂いて剣先が肺に達し、倒れ伏す。返す剣でユアサン=ジョウに迫らんとしていた1人の背中に切りつけ、背骨を断って殺した。
仰け反ってその刺客も倒れる。ユアサン=ジョウに迫った1人は、ユアサン=ジョウが小刀で苦無の一撃を受けるや肩に担いだ大刀がすかさず横面を打ち、こめかみから脳天に刃が食いこんで倒した。
そこへ、5騎ほどの馬賊の小隊が襲いかかった。
「精霊気だ!!」
「生け捕りはあきらめろ!! 殺せ!!」
足元が悪いが、果敢にホーランコルが前に出る。凄まじいタイミングで馬の前蹴りをかわすや騎兵の左に回りこみ、剣先で馬上の賊の脇腹を引っかけた。魔法効果で衝撃が内臓まで達し、血を噴き出して賊が馬から転がり落ちる。
「クソ! またあいつだ!」
「東方の達人だぞ!」
「ほっとけ! しょせん1人だ!」
ユアサン=ジョウが賊とアルーバヴェーレシュのあいだに入ろうとしたが、そこに3騎の第2部隊が到着。ユアサン=ジョウめがけて曲刀を振り下ろした。
ユアサン=ジョウがそれを避けざまに二刀を交差し、
「ギャアッ!」
曲刀ごと腕が宙に舞って、その賊も雪原に落ちる。
そこでアルーバヴェーレシュが、
「いたぞ、2人とも無事だ! 向こうも魔力で応えたから追跡可能だ!」
そう云っていったん探査術を終了し、ほぼ同時に強力な魔法の矢を思考行使! いきなりアルーバヴェーレシュの頭上の空中から銀色の短矢がほとばしって馬賊を次々に撃ち殺した。
ルートヴァンほどではないが、アルーバヴェーレシュ級にもなれば、魔法の矢とて大口径の拳銃並だ。胸が貫かれ、あるいは脳天が爆発して雪原に血のりをぶちまける。
「走れ! 合流する!」
アルーバヴェーレシュがゆるやかな上り坂になっている雪原を駆け、ホーランコルとユアサン=ジョウも続いた。
「逃がすな! 囲め! 生きた精霊気だぞ!!」
賊どもも、正直誰がエルフなのかわけが分からなくなっていたが、とにかく命令なのと数十万から100万トンプの御宝を追っているという意識が戦意を昂揚させていた。




