第16章「るてん」 5-4 包囲
(精霊気狩りにまじって、拙者を狙う刺客が……!)
ホーランコルたちは、再び襲撃してきた先日とは違う軍閥の兵を相手にしていた。
それが、規模が大きい。先日の倍はいる。
軍閥たちにとっても情報に尾ひれはひれがつき、ホーランコル達全員がエルフということになっていた。エルフが5人では、100万トンプ以上にもなる。ちょっとした小領主家の、年間予算に匹敵する額だ。
あまり夜目の効かない飛竜は、夜は格段に戦闘力が落ち、いまは狼竜だけが頼りだったが、どこで情報を仕入れたものか……竜狩りの部隊がおり、狼竜たちを相手に奮戦している。
ホーランコルはむしろキレットとネルベェーンの直掩について剣をふるい、アルーバヴェーレシュが自分で自分の身を護っている有様だった。
(なるほど、マートゥーの特殊部隊がここ数日の様子を見ていて……精霊気狩りの賊どもや賞金稼ぎを使い、拙者とホーランコルたちを分断させているのか……)
それほど、ユアサン=ジョウ……いや、このタケマ=トラルはマートゥーに不都合な情報を握っているということを意味する。もちろん、ホーランコル達が竜を操ることや、全員エルフだなどという欺瞞情報を流し、軍閥や賞金稼ぎを集めたのはこのマートゥーの特殊部隊だ。
(というより、少しチョロチョロしすぎたか……ほとぼりを覚ます良い機なのだろうが、その前に無事にイェブ=クィープに入らねば……!)
正確に飛んできた分銅付きの投げ縄を避け、ユアサン=ジョウ、
「ホーランコル、無事か、ホーランコル!」
そう叫んで、なんとかホーランコルに向かって走った。
自分を狙う刺客の相手を、ホーランコル達にもしてもらうためだ。
「ホーランコル!」
刺客もそれを分かっており、ユアサン=ジョウがホーランコルに近づくほど、襲撃の手が止んだ。
「……ユアサン=ジョウ、今回の襲撃はちょっと荷が重いな! イェブ=クィープまでは、あとどれくらいだ!?」
「あと1日だ! これをしのげば、後すぐだ!」
「そうか……!」
真冬ながら、ホーランコルが左手で額の汗をぬぐった。
「ホーランコル!」
アルーバヴェーレシュの声がし、2人が抜き身の剣をひっ下げたまま声のほうに走った。
アルーバヴェーレシュとしても、1人であれば飛翔魔法で逃げるなり、大規模攻撃魔法で一網打尽にするなり、やりようはいくらでもあった。が、人間の仲間といっしょで、かつ連携しての戦闘は慣れていないので、未だに戸惑い気味だった。
「すまん、キレットとネルベェーンを見失った!」
小柄なアルーバヴェーレシュが、顔をしかめてそう云った。
「なんだって……!?」
旅の仲間であることもそうだが、いま竜を失うのはまずい。馬賊の大軍団の半分近くを狼竜たちが引き受けているのだ。
周囲を見やったが、急激に暗くなってくる中で、確かに敵も味方も訳が分からなかった。小部隊の馬でウロウロしているのは間違いなく敵だが、中には馬を下りて歩兵として散会している賊どももいる。キレットとネルベェーンは、近接戦闘に弱い。
「あの2人がそう簡単にやられるとは思えんが、乱戦は何が起きるか分からん。ここは完全に夜になるのを待って、夜陰に乗じ……」
ホーランコルがそう云いかけると、照明弾めいて、複数の照明魔法が空に舞った。我々の世界の照明弾と違い、魔力が尽きるまで空中に留まって周囲を照らし続ける。
「クソ、夜通しでも俺たちを狩る気だな!?」
ホーランコルが叫び、アルーバヴェーレシュも、
「魔術師なんかいたんだな……」
そうつぶやいた。これまで、一回も魔法の攻撃を受けていないので、てっきりこの軍団には存在しないのかと思っていた。
「補助魔法専門かもしれない。魔法戦士か……?」
ホーランコルが分析し、
「アルーバヴェーレシュ、シンバルベリルを使ってくれないか?」
「シンバルベリルを!?」
大規模攻撃を意味する。この状況でこれまで使わなかったのは、もちろんホーランコル達を巻きぞえにしないためだ。
「大丈夫なのか!?」
「シンバルベリルを使って、キレットとネルベェーンを探してくれないか」
「そっちか!」
アルーバヴェーレシュが、銀の眼を見開いた。
「やったことはないが……やる価値はあるな」
「急いでくれ給え! 集まってきたぞ!」
周囲を確認したユアサン=ジョウが云った。照明魔法に照らされた3人を、三方向から馬賊の小隊が取り囲んで包囲を狭めてきた。




