第16章「るてん」 5-1 見物料
(……『ゲントー』とやらのことを含め……これは、どうあってもオッサンに会って、当時の話を聴かなくてはならんようだな……!!)
そんな時間が、いま全く取れないのは分かりきっていたが、ことは急を要する。それに、オッサンこと元魔王無楽仙人マーラルは、容易には掴まらない。後で接触しようと思っても、あの無何有の里の亜空間にいればよいが、いなかった場合は本当に探しようがない。いるうちに捕まえなくてはならない。
しかも、である。
(待てよ……オッサンは、あの封印魔導都市を管理するために、その力のほとんどをあの分身に費やしていた……それが無くなった今、その力は戻っているのでは……?)
立ちすくんだルートヴァンが、武者震いに震えてきた。
もしそうだとしたら、魔王の1人がストラの味方になってくれる可能性がある。
(戻っていなかったら、それはその時だしな……当時の、貴重な生き残りだ……話を聴くだけで、恐ろしいほどの価値があるだろう)
執務の合間になんとか帝都に行く算段をつけようと、ルートヴァンは頭をひねりだした。
5
「マートゥーってとこは、イェブ=クィープとは仲が悪くもないが良くもないっていうところで……どっちかというと、イェブ=クィープに対抗するために、クァラの諸州を併合したいと思っているくらいでね」
冬の街道を進みながら、ユアサン=ジョウがそう云った。
「くわしいですな」
胡散臭げに、ホーランコルが相槌を打った。
「そりゃあ、拙者は用心棒でアチコチまわっておりますので」
ユアサン=ジョウがアッサリとそう答え、ホーランコルが、
「まわりすぎて、敵も多いということで?」
「それを云っちゃあ、ね……そこは、向こうだって傭兵と割り切ってもらわないと、用心棒稼業なんか成り立ちませんよ」
「確かに……」
「そこで、ちょっと提案なんですが」
ユアサン=ジョウが立ち止まったので、一行も歩みを止めた。
「先日の騒ぎもありますし、精霊気の姐さんがいるという情報もとっくに売られているでしょう。我々は、マートゥーの関所は通れませんよ」
4人が、さもありなんという表情になった。
「そうか……では、どうする?」
「街道を外れて、荒野を行きましょう。関所を通らずにマートゥーを抜けてイェブ=クィープに入ることができます。ちょっとした抜け道ってやつですよ。ただし、マートゥーの警備兵や、賞金稼ぎや、精霊気の姐さん……」
そこで、小柄なアルーバヴェーレシュが銀眼でユアサン=ジョウを上目ぎみに睨みつけ、
「アルーバヴェーレシュだ」
「……アルーバヴェーレシュ殿を狙うやからがわんさかと追ってくるでしょうが……どうします?」
「どうしますって……」
ホーランコルとキレットが苦笑。
「荒野は、襲撃が無いと仮定して、何日で抜けられる規模なんだ?」
ホーランコルのその質問に、ユアサン=ジョウ、
「何事も無かったら、3日もあれば……」
「大した広さじゃあないな」
「そりゃ、マートゥー自体が、それほど大きな国ではないですし」
「ガフ=シュ=インやリネッツの大荒野を抜けてきた我々だ。そんな広さの荒野など、前庭みたいなもんだよ。敵の規模にもよるが……」
ホーランコルがそこでキレットとネルベェーンを見やり、
「この2人の魔術師は、遠く南方大陸出身の強力な魔獣使いでね。そういった広い場所で、もっともその強さを発揮する。アルーバヴェーレシュも、まだ見たことは無いだろう?」
「無いな」
「見物料はタダだ。魂消るぞ」
アルーバヴェーレシュが不敵に笑い、
「そいつは、楽しみだ!」
ユアサン=ジョウも興味深げに、
「拙者も見物できるので?」
「ユアサン=ジョウ殿は、見物料がいる」
「いくらで?」
「襲撃されたら、その剣を抜いてくれるのだろうな? それが見物料だよ」
ユアサン=ジョウが高らかに笑った。
「もちろんですとも! どうせ、拙者もついでに狙われるのでしょうからな。きっと先般の連中、いまごろ拙者の首に賞金をかけとるでしょうよ」
「じゃあ、決まりだ。荒野を抜けよう」
ホーランコルがそう決断し、みなうなずいた。




