第16章「るてん」 4-3 代王
「で、殿下……それは、どういう……?」
「御爺様を殺めた敵を討ち滅ぼさぬ限り、王位にはつかん!!」
決然とルートヴァンがそう宣言し、みな息を飲んだ。
「……とはいえ、王国の執務はいかがされる? 王子では進まぬことも多うござる!」
シラールがそう云い、ルートヴァン、
「代王でよろしいかと」
「だ、代王?」
そんな前例あったっけ? というざわつきが、朝議の間に響いた。
「第5代フェールデル王が、代王だっただろう」
ルートヴァンがそう云ったが、歴史に詳しい大臣の1人が、
「しかし、フェールデル1世陛下は諸事情により3日間だけ代王で、すぐに王に御成りあそばされましたが……!」
「3日だろうが代王は代王だ。かまうものか。敵を早く倒せば、それだけ早く王になれる! 全身全霊全魔力を持って、王宮の魔法防御をイチから構築し直し、御爺様の仇を探し出すように!」
全員がそれを了承したのち、新たな人事を揉んだ。
その結果、密かに王国は非常事態宣言を発令。ルートヴァンを代王に宰相を含む諸大臣はほぼ変更せず(12人のうち3人がヴァルベゲルを護れなかった責任を感じ、自ら職を辞した)に、改めてシラールを魔導参謀総長とし、その腹心であるルートヴァンの先輩に当たる凄腕の魔術師5人が魔導本部を構成した。王宮と王国の防衛魔術を根本から変更する。
朝議ののち、ルートヴァンはペッテルと魔力通話で連絡を取った。
事情を聴いたペッテルは仰天して絶句していたが、
「殿下……いえ、陛下。何なりと御命じ下さりませ。このペッテル、できる限りのことを致しましょうぞ!」
「感謝するぞ、ペッテル。ただでさえ、山ほど丸投げにしてしまっているのに……」
「勿体なき御言葉!! 私めや公爵閣下、そして公国を御救いいただいた聖下と陛下の御恩……一生をかけて御返し申し上げる所存にて!」
「そう云ってくれるか……」
ルートヴァン、少し涙ぐんだのち、
「では遠慮なく頼むとしよう」
「ハッ!」
「此度の所業、未知の魔王の仕業である可能性がある。ゆえに、これまで通りの魔王探しと共通する部分もあるだろう。状況を鑑みるに……魔王といっても、自由に動けない理由があるのではないか。魔王ではないにしても、魔王に匹敵する恐るべき相手だ。探る意味はある」
「いかさま!」
「そこで、これまでにこのような暗殺事件が帝国でなかったか……探ってほしい。あからさまな暗殺はだめだ! 御爺様のような、最重要要人の急死を探れ。そして、その背後の記録が残っていないか……調べてほしい。共通点が見つかるかもしれん」
「大至急、行いましょう! リースヴィルの力も借りて、地下書庫の検索能力はさらに上がっております。書籍の内容を完全に記録する装置も作りました」
「フローゼの修理の他に、そのようなものまで……」
ルートヴァンが感心する。
「フローゼも、あと半月もあれば聖下に合流できるかと」
「素晴らしい! 戦力を分けたので、聖下の露払いがいなかったところだ。魔王たるもの、なんでもかんでも御自らがやるものではない」
「いかさま」
「では、頼んだぞ」
それから10日ほど、ルートヴァンはヴァルベゲルの国葬やら内政の案件やら代王宣言やらで、目も回る忙しさだった。これで我々の世界のように議会があれば、議会対応で多忙が極まっていただろう。
その間、敵の存在をつい忘れてしまうほど、謎の敵はまったくといって動きがなかった。
(……やはり、御爺様の暗殺だけが任務だったのか? それとも、動けない理由、あるいは動かない理由があるのか……?)
考えていてもしょうがなく、ルートヴァンは辛さを忘れるように、目の前の仕事に集中し、また忙殺された。
「陛下、新たな魔導防御陣の基礎式が組みあがりました!」
シラールから連絡を受けて、
「こんなに早くですか!?」
ルートヴァンも驚いて、魔導参謀本部に向かう。
そこで、空間に模式が組まれた魔導式をみなで確認しあった。
「これは凄い……さすがシラール先生と、名にし負うヴァルンテーゼの教授陣です……!」
ルートヴァンが感嘆し、唸った。
「これで、少なくともこれまでの5倍の防御力が……」
そう云うシラールに続き、教授の1人、
「さらに、これまでの防御魔法で探知できなかったところを鑑みるに、敵はおそらく、空間制御術に長けていると思われます。空間の揺らぎ、魔力のゆらぎの感知能力を少なくとも30倍にし、できれば50倍にまでもってゆきます!」




