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第16章「るてん」 3-13 餞別

 リースヴィルの照明魔法を覚えている者がその視線に怯んで、名主に何か注進しようとしたが、トン名主が、


 「魔法使いやら帝都の冒険者やらと云うならまだしも、精霊気エルフなどを村に入れるのは御法度だ!! なぜ隠していた!」


 「そんな法度は知らなかったからですよ。教えられていないもの」


 「黙れ! こうなればその精霊気エルフを生贄にさせてもらう! 素直に差し出してもらいたい!」


 「はあ?」

 さすがに呆れて、リースヴィルが口元をゆがめて小鼻で笑った。

 「なんだ、その態度は!!」

 子供に馬鹿にされたと思った名主が、怒りに顔をゆがめた。

 「もういい、リースヴィル。時間のムダだ」


 漆黒フードローブ姿のオネランノタルが前に出て、リースヴィルが礼をして下がる。


 「おまえが精霊気エルフか!?」

 「まさか」

 オネランノタルがフードをとり、その魔族の素顔をあらわにした。

 「げえッ……!!」


 エルフどころか魔族がいるなどと想像にもしていなかった村人たちが、心の底から魂消たまげて一気に憤りが消失する。


 「だいたい、なんでエルフのことを知っているんだい?」


 云いつつ、震えあがって村人の後ろに隠れた民宿の女将をその四ツ目で凝視し、女将が恐怖でへたりこんだ。


 女将は結局、トン名主にプランタンタンのことを報告した。息子のために生き胆をほんのひと口もらえるか、もしくは自分と息子を終生村で面倒を見るというのを条件にして。


 生きたエルフは最低でも20万トンプで売れるし、干し肉や鞣し革などに加工し、少しずつ売っても莫大な利益を村にもたらすのは言を待たぬ。


 厳しい税率に悲鳴を上げる村にとって、副音なのは間違いない。なんでもいいからでっちあげて、プランタンタンを誘拐しようと思った。


 「浅知恵の極みだね、どうも」

 オネランノタルが四ツ目を細めて耳まで裂ける笑みを浮かべ、


 「いいか、我らは異次元魔王一行だ。魔王様は、既に東方では国を幾つか討ち滅ぼしている御方だ。貴様らごときがあまり調子をこいていると、村ごと無くなるではすまないんだぞ!」


 「なに、魔王!?」

 名主を含め、村人ども、まったくピンと来ない。

 「ま、まおう・・・ってなんだ……!?」

 名主の後ろでそうザワついている村人にオネランノタル、

 「だめだこりゃ」


 笑顔も消えて、どうしたものかと思案する。

 「もういいですよ、魔王様、オネランノタル殿」

 リン=ドンが前に出る。

 こんな子供、一行にいたか? という顔で、村人たちがリン=ドンを凝視した。


 「かような愚者どもの祀りで魔力を得ていたとは、むしろ我が身の恥。贄も、もういらぬわ。我はこの地を捨てて魔王様と共に行く故、己らは好き勝手にしろ。ただし、我がいなくなったならば、あの沼は3年と持つまいが」


 「な、なんだと……!!」

 なんとなく察した名主が、震えだした。

 そこで、リン=ドンが正体を現した。


 全長が30メートルはある巨大な蛟竜が現れて、ストラ一行をその身の内に匿いながら数メートルもの鎌首をもたげた。白と様々な青色に彩られた竜とヘビの中間のような姿で、まだ四肢は無いが鋭いたてがみやヒゲ、何本もの小さな角が、まったく竜のようである。黄色い眼がギョロリと恐れおののく村人どもを睨みつけ、水気により周囲がたちまち霧深くなった。冬なので、その霧が一気に霜となって村人たちにまとわりついた。


 「わ、あ、わわ……あ……!!」

 村人たちが、文字通り凍りついて、ただリン=ドンを見あげた。

 リン=ドンがそのヘビ面をニヤリとゆがめて、

 「贄はいらぬと云うたが、餞別くらいはもらっておこうか」

 云うが、バクバクと村人にかぶりつき、次から次に丸呑みにした。

 「……!!」


 悲鳴もなく、名主や女将を含めてその場にいた15人ほどの村人が、逃げることもままならずに立ちすくんだまま全てリン=ドンに呑まれた。


 そこでリン=ドンが少年の姿に戻り、

 「さすがに、おなかいっぱいです!」

 などと童顔の笑顔で太鼓腹を押さえて云うものだから、思わずフューヴァが、

 「饅頭を食いすぎたみてえに云ってんじゃねえ!」

 と、つっこんだ。

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