第16章「るてん」 3-8 350トンプでいい
「その水の神さんは、つまり、山奥の湖だか川だか知らねえけど、この村の水源を護ってるってわけ?」
フューヴァがそう云い、トン名主らがうなずいた。
「そう、そういうことです!」
「だけど……その代償の生贄に、もう応えられねえってわけか」
「毎年なんか、無理です! ……しかし、水神様を退治してしまっては、水源がどうなるか分かりません」
「悩ましいな」
「せめて理由だけでも……と、思っておりまして」
「調査だけなら、やってみてもいいんじゃねえっすか?」
フューヴァがそう云って、ストラを見た。
「いいよ」
ストラがそう云い、村人らが安堵の表情を見せる。
そこで、フード姿のプランタンタンがフューヴァの腕を引っ張り、フューヴァが小声で、
「なんだよ」
「いくらで請け負うんでやんすか!?」
フューヴァが小さく舌を打ち、
「おまえさあ……」
「大事なことでやんす! 旦那の腕前は、慈善事業じゃねえでやんす!」
「分かった、分かったよ……」
その声が聞こえていたようで、トン名主が苦笑しながら、
「謝礼は、もちろん……しかし、こんな村ですから、帝都の報酬のようには……」
「いくらでやんす?」
プランタンタンが深いフードの奥から、そう云った。
「350トンプでは……」
「あの、皆さん方は御存じねえでやんしょうけど、こちらの旦那は、帝都じゃあひと仕事で5000トンプも6000トンプも稼いでいたんで」
引きつったような声で、名主の後ろの村人たちが悲鳴を発した。
「そ、そんな金、あるわけないだろ!!」
「ばかにしてんのか!」
「ばかになんかしてねえでやんす。旦那の腕前は、それくらいとんでもねえんで。それだけでやんす」
「なんだと……!」
名主が手を上げて、村人たちを黙らせた。
「明るくなったら、村の様子を御覧ください。こんな寒村では、一件で数トンプから多くて15トンプを出すのがやっとで、それに私が100トンプを加えたのです」
「じゃあ、無理に泊まらなくてもいいので、行きやんしょう」
プランタンタンがそう云って席を立ち、フューヴァが呆れ果ててそれを見た。
「おめえよお」
「だって、そうでやんしょう」
「ストラさん、なんとか云ってくださいよ」
フューヴァがストラに話を振った。みなが、仏像みたいなストラに注目する。
「村の奥の山あいに、水が堰き止められたような小さな水源がありますが、そこに、水の神とやらが住んでいるのですか?」
見たことも無いはずなのに水源を云い当てたので、名主も含めてみな目を丸くした。
「そ……そうです、どうして御分かりに!」
「旦那の御力の一端でやんす!」
また席に着いたプランタンタンが、さも自分のことのように自慢した。
「話ができる相手なのですか? 人語を話すのか……という意味ですが」
「私は会ったことがありませんが、会ったことのある古老が云うには、人間の言葉を話す大蛇なのだそうです」
「ヘビですか……」
「やっぱり、魔物でしょう」
リースヴィルがついそう口をはさんでしまい、
「魔物ではない!!」
トン名主が真剣になってそう叫び、卓を拳で叩いた。
「おめえも黙ってろ、少し」
フューヴァがそうたしなめ、リースヴィルが肩をすくめて、
「すみません」
小さく云った。
「350トンプでいいですよ」
ストラがそう云い、村人らが歓声をあげた。プランタンタンも、
「旦那がそう云うんなら、かまわねえでやんす」
「ナニ様なんだよ!」
思わずフューヴァがプランタンタンを小突いた。




