第16章「るてん」 3-6 諍い
「どれ、私が偵察してこよう。みんなはゆっくり歩いておいでよ」
云うが、オネランノタルが飛翔術で闇に消えた。
リースヴィルとストラの出した浮遊照明球を頼りに、そこから5人が街道を無理せず進んでいると、やおら激しく雪が降ってきた。ここで野営をするか急いで集落に向かうか判断を迫られたが、いつの間にかオネランノタルが戻って来ていて、
「役人とも冒険者ともつかない複数人が村を出ようというのを、主だった村人が必死に留めていたよ。理由は分からない」
「へえ、面白そうじゃねえか。ストラさん、ここはひとつ、村に入っちまいましょう」
「いいよ」
そこから20分ほどで、街道の闇に明かりが確かに浮かんでいるのが見えた。
雪も止んでおり、そのまま進む。
すると……。
「御役人様!! 後生です!! どうか見捨てないで……!!」
「うるさい! 逃げるのではない! 城から兵を呼んでくるんだ! 何度云えば……!」
「こんな時刻に、全員で行く必要はないでしょう!」
「逃げるつもりだったんだろ!!」
「ぶ、無礼な! 黙れ!」
「道を開けんか!!」
「どけ、どけ!!」
「あ、待て! チクショウ!」
「囲め、囲め! 逃がすな!」
農機具と松明を持った何十人もの人びとが、暗い寒空に白い息を吐いて、5人の役人と思しき者を取り囲んだ。
「き……貴様らあ! 何の真似だあ!」
「どうなっても知らんぞお!」
役人たちが、憤怒の形相で怒鳴り散らした。
だが、村人たちも負けていない。
「何人か、残れって云ってんだあ!」
「死刑にするんならしてみやがれ! 殿さまが兵を出してくれなかったら、どっちにしろ死ぬんだぞ!」
「死なばもろともだ、コノヤロウ!!」
「……まさか、我らを人質にしようというのかあ……!!」
そこに、ノコノコと一行が現れる。いつもならプランタンタンが揉み手で割って入るのだが、
「おい! 取り込み中のところすまねえがよ、この村に泊まれるところはあるかい!?」
フューヴァが前に出てそう云った。が、当たり前ながら誰も聞いていない。
「おい、おーい!!」
フューヴァが舌を打ち、
「リースヴィル、その明かりをこいつらにぶつけてやれや」
「フ……分かりました」
照明魔法が動き、輝きも増して、喧喧囂囂の人びとの顔を次々に照らしつけた。
「!?」
「な……なんだ、まぶし……!」
「なんだ、誰だ!?」
「ま、魔法か!?」
「おい、止めろ、止めんか! 誰だ!!」
役人たちも村人らも、諍いもそっちのけで光の照射を手で遮り、叫んだ。
「わりぃわりぃ、旅のモンだがよ、村に泊まるところはあるかい? ちなみに、帝都から来たんだぜ!」
フューヴァが逆光に影となってそう云い、
「な……旅の者!?」
「帝都だって!?」
「そうだぜ」
「いいから、この魔法の光をどかせ! まぶしくてかなわんぞ!」
そこで、ようやくリースヴィルが明度を下げ、照明球の指向性をゆるめた。
眼をこすりながら、村人や役人たちが一行を確認する。なお、オネランノタルは既に空中に隠れているので、5人だった。
「な……なんだ、女子供か!」
何処かに行こうとしていたくせに、役人がふんぞり返ってそう声を荒げた。
フューヴァも負けじと顎を上げ、眉をひそめて、
「んだあ!? ああ!? おい、いいか! こちらは超絶凄腕の魔法戦士、ストラさんだ! そこらの勇者じゃ足元にも及ばねえ。ま、アタシらはその従者だけどよ。あと、魔術師はこいつね。ガキだと思って甘く見るのは御薦めしねえ」
フューヴァがそう云うや、リースヴィルが分かりやすく手を動かして、照明魔法がUFOみたいに空中を動き回ったので、みな声をあげて瞠目した。




