第16章「るてん」 2-4 エルフを食べる
4人は一瞬、顔を見合わせ、
「え、ええ、もちろんです。かまいません。ぜひ」
ホーランコルがそう云い、4人は部屋に通された。
「2部屋でいいか? 小さな宿なものでな……」
「かまいません」
キレットとアルーバヴェーレシュ、ホーランコルとネルベェーンで1部屋ずつとった。
この地方特有なのか、やけに硬い籐製の寝台であったが、地面に寝ないのは何日ぶりだろう。歴戦の冒険者といえど、放浪し続けているのも疲れる。
「これは助かったな」
ホーランコルが、大きく息を吐いてそう云った。
「そうだな」
無口なネルベェーンも、どこか表情が安堵で緩んでいる。
「メシは出るんだろうな」
「聴いてこよう」
ネルベェーンが部屋を出ようしたその時、オヤジがストーブに火を入れに来た。ちょっと変わった形だが、大きな薪ストーブだった。
「代わりの薪は、通路の奥に積んであるんで、好きに使ってくれ」
「ああ、ありがとう」
オヤジが来たついでにホーランコル、
「メシもつくのかね?」
「もちろん。もっとも、この地方の典型的な田舎料理だがね。それに冬だし、あまり大したものは」
「旅の糧食に比べたら、御馳走だよ」
「皆さんがたは、イェブ=クィープに?」
「そうだが」
猫背のまま、オヤジがそれとなくホーランコルの剣やネルベェーンの魔法の短杖を見やり、
「……こんなところまで来る冒険者だ……さぞや凄腕なのだろうな。しかし、いまあすこはキナ臭い。いや……あすこを含めて、ここいらへんはみなおかしくなってきている。気をつけることだ……」
ホーランコルが、ネルベェーンと眼を合わせた。
「詳しく、聴かせてほしいんだが……金なら払うぞ。情報料だ」
オヤジはしかし、顔をしかめて手を振った。
「いらん。関わり合いになりたくない……」
「そ、そうか」
意表を突かれ、ホーランコルが声を失う。
そこで、ネルベェーン、
「エルフについて、少し、聴きたいんだが」
ネルベェーンが率先してものを云う姿に慣れていなかったので、ホーランコルが驚いてネルベェーンの横顔を見た。知り合ってから、こんなに積極的に話すネルベェーンは初めて見た。
オヤジは無言でネルベェーンの濃い焦げ茶の顔と白い大きな眼を、その針のような眼で凝視した。
「こっちの人間は、エルフに何かあるのか? どうして仲間を襲うのだ? どうして、それほど高値で取引される?」
「……東じゃ、精霊気は珍しくないのかね?」
「珍しいが、街にいなくもない。こうして冒険の仲間にもなる」
「そうかい……。ま、こっちじゃ精霊気なんてのは、半分は御伽噺の住人みたいなもので……その肉を食べると、寿命が30年は延びる大層な薬になるということで、金持ちや貴族どもが金に糸目をつけないで手に入れたがる。生き胆なんざ、どんな病も直すと信じられており、その重さの金の10倍も20倍もするという。せいぜい、御仲間も気をつけることだ、な……」
淡々とそう云うオヤジにネルベェーンが厳しい視線を向け、ホーランコルはさらに絶句した。
が、息せき切って、
「た、食べる!? 食べるだと!? いま、エルフを食べると云ったか!?」
「ああ、云ったとも」
「あ……」
オヤジの、さも当然に「それがなにか?」という答えに、ホーランコルがまた言葉を失った。
「では、メシができたら呼びますんで」
そうして部屋を出がけに、ニヤッと口元をゆがめながら流し目で、
「なあに、眠り薬なんか入っちゃいないよ。入れたって、どうせ無駄だろう?」
そう云ってドアを閉めた。
ホーランコルがゾッとして冷や汗をかいていると、ネルベェーン、
「そんなことだろうと思った」
と、云うではないか。




