第16章「るてん」 2-2 エルフを狙う者たち
農作物の収穫もそこそこ、地政学的にも中途半端なうえ、統一するような気概や実力のある領主も出てこないし、統一するメリットも特にない。大国同士が緩衝地帯としてあえて放置しており、治安も悪く、盗賊や無頼兵が跋扈している。地元民以外はイェブ=クィープかマートゥーに向かう人くらいしか通らないし、護衛は必須だった。
もっとも、この4人が凄腕の冒険者であり、そこらの護衛よりもはるかに強いのだから、問題はないのだが。
山あいで急に細くなった、小雪の舞う冬の街道を歩いていると、森の奥よりいきなり4人を取り囲む者どもが現れた。
盗賊団だ。
全てで20人ほどもいる。けっこう大がかりだった。
クァラ地方の西方人で、全体に小柄だが中には大柄な者もいる。
分厚い綿入れを着こみ、革のブーツのようなものを履いていた。みな、黒髪を無造作に結っている。ヒゲモジャの者もいたが、比較的髭は薄い印象だった。幅の広い片刃の蛮刀や、同じく片刃で鋭く細身のイェブ刀を手にして、威嚇も兼ねていっせいにわめき散らした。見開いているようだが、眼が細い。
まだルートヴァンの言語調整魔法が効いているため、言葉が分かる。
「精霊気と金をよこせ!」
「精霊気だ!!」
「とっととしやがれ、死にてえのか!!」
「素直に精霊気を差し出せば、他は見逃してやる!」
ケープマントの下でも、ホーランコルのゴツイ剣が見えているはずなので、賊どもも無駄なケガはしたくないはずだった。そのため、多勢で取り囲んで脅しつけ、エルフと金を差し出せばそれでよし……というところだろう。
問題は、そのエルフが4人の中でいちばん強いということなのだが。
「私がどうした!?」
アルーバヴェーレシュがフードを取り、賊どもを睨みつけた。賊どもが響鳴きや歓声をあげ、
「こいつぁ売れるぜ!」
と、誰かがつぶやいたのを、4人が確認した。
確かに東方諸国でも捕らえたエルフを売買する例はあるが、普通の人身売買よりちょっと値が高いくらいで、エルフを差し出せば他は見逃すというほどでもない。
つまり、西方では、エルフは特別に珍しく、値が高いことを意味する。
「ホラ、こっちへ来やがれ!」
アルーバヴェーレシュも魔法の小剣を装備しているが、元々小柄なのと、細身の武器なので分からなかったのだろう。賊の1人がそう云って不用心にアルーバヴェーレシュの腕を取ろうとしたが、アルーバヴェーレシュがフード付きのケープマントをひるがえして小剣を振りかざし、賊の腕を切りつけた。
「ギャア!!」
その声を合図に、ホーランコルもフードを取って抜剣。キレットとネルベェーンは、フードのまま腰帯に手挟んでいる短杖をとった。魔獣を召喚するまでもなく、この程度の賊なら人並の一般魔法で充分だろう。
「こっ、こいつら……!」
「ぶっ殺せ!」
「取り囲め!」
「臆するんじゃねえ!!」」
賊どもは威嚇も兼ねてよくわめくが、魔王の配下として究極の戦いを目の当たりにしているホーランコル達は、こんなものは戦闘の内にも入らぬ。それほどの意識の違いだった。
まず短い呪文で魔術師2人の魔法の矢が合計で4本飛び、正確無比に4人を打倒した。キレットとネルベェーンのレベルでは、不得手な一般魔法と云えども拳銃ほどの威力になるので当然だ。賊どもは分厚い布の服のみだったので、容易く貫通した。
ホーランコルが2人を護衛しつつ、賊の蛮刀を一撃で打ち払って、返す剣で首を叩き切った。それを流れるような動作で、立て続けに3人。1人はほぼ首がもげ、3人とも雪に真っ赤な液体を噴きまいてひっくり返った。
アルーバヴェーレシュは小剣を眼にも止まらぬ速さで振りかざし、連続で5人の賊を斬り伏せた。魔法の剣なので、細く短いながらまるでビームサーベルだ。触れただけで敵の刀を断ち折り、腕を切断し、あるいは胴に致命傷を負わせた。
「……!!」
遠巻きの賊ども、瞬きする間に半壊して、声もなく一目散に逃げだした。
「バケモンだあ……!」
その1人を、アルーバヴェーレシュが魔法で麻痺させ、ひっ捕らえた。
「お、御助……け……え……」
なんとか声が出せるほどに調整し、呼吸まで麻痺させない。
「なぜエルフを狙う? 正直に答えろ。でなくば、殺す」




