第16章「るてん」 1-13 389人
「リースヴィルは?」
「僕もです。魔薬類に関しては、流れてくる微量のものを上流階級が使っているくらいで……どこから入手しているのかと云えば、王都の商人がほとんどです」
「じゃあ、王都に無何有が?」
オネランノタルの言葉にリースヴィル、
「それが、そうとも云い切れず……はっきりしません」
「人の心を読むと云っても、人の心は割とあやふやだからね」
「私の得た情報では」
2人が、ストラの声に集中する。
「カアン州という土地のローウェイという大きな街が、この国の裏組織の巣窟ということです。おそらく各種の魔薬もそこから王都に入り、王都でさばかれて、各地に流れていると推測されます」
「それは、誰の心を読んだんだい?」
「この街の行政長官を含め、州の支配者貴族階級、州政庁、都市政庁に勤める役人、及びその成年家族、上級商人とその成年家族、及び各商家の上級使用人、合計389人の総合情報によりそう判断しました」
「さ……389人!?」
リースヴィルが素っ頓狂な声を発し、オネランノタルも眼をむいて驚いた。彼らには、広く浅く情報を集めて総合判断するというが発想がない。従って単発の情報筋に固執し、目星をつけて当たるだけなので、短時間の情報収集にあって、はなはだ効率が悪い。
「昼から夜にかけて389人とは……さすがストラ氏だ」
オネランノタルも感嘆する。
「で……あれば、次の目標はそこだね。とっとと出発しよう。明日はどうだろう? プランタンタンたちは?」
「3人は大丈夫でしょう」
リースヴィルがそう云い、
「ではそれで」
ストラがそう決定を下した。
解散し、リースヴィルはそのまま3人の部屋に向かった。
「ただいま戻りました」
「おう、御疲れ。おまえも食えよ、ちょっと量が多かったぜ」
フューヴァがそう云い、リースヴィル、
「僕は食べなくても平気ですが……いただきます」
席について、余った料理をすべて平らげつつ、出発の話をした。
「じゃあ、すぐにも出発だな」
「ええ、明日の朝には出ます。そのつもりでいてください」
「アタシたちは、いつでも大丈夫だぜ。問題はおまえだよ。おい、ペートリュー! 聴いてるのかよ!?」
ペートリューはもう甕より酒を移した瓶をラッパ飲みにしていたが、口元をぬぐい、まぶしいほどの笑顔で、
「だあいじょおぶですよおお~~~聞いてますううう~~~~」
「この酒どうするんだよ!?」
フューヴァが、壁沿いに並べた中甕を指さして叫んだ。
「まさか、今夜中に飲んじまうとか云うなよ!?」
「さすがにそこまではしませんよお~~~もったいないですから~~~~オネランノタルさんにお願いして、しまってもらいますううう~~~~」
「チィッ」
フューヴァがあからさまに舌を打ったが、いつものことだ。
そして、翌朝……。
オネランノタルが中甕をすべて次元倉庫に仕舞いこみ、思っていたよりペートリューも二日酔いではなく、普通に出発できたので、プランタンタンとフューヴァは少し驚いた。
リャンタンから王都フエンに到る街道は、東西商人が常に行き交っているので、この真冬でも賑わっている。
だが、そこから別れているカアン州に向かって伸びる街道は閑散としていた。
「ずいぶんと、すいてるでやんす」
魔法のフードをすっぽりとかぶった姿のプランタンタンが、キョロキョロしながらつぶやいた。
「カアン州に用のある人が、少ないってことでしょうね」
リースヴィルが、プランタンタンの横でそう云った。
「ただでさえ人が少ないんじゃあ、アタシらみてえなのは、よけい目立つんじゃねえ?」
フューヴァもそうつぶやき、オネランノタルが、
「そうかもね、プランタンタンは特に気をつけることだ」
「そういえば」
ストラが突然そう云いだし、みな注目する。
「先日、この国の上空に3本の箒星が同時に現れたということで、みなこの国に不吉なことが起こると神経質になっている模様です」




